『哲学と宗教全史』がじわじわと売れています。
本体価格2,400円、分厚い!という印象のある本ながら、多くの方に手にとられ感動を与え続けている秘密はどこにあるのでしょう。データからその裏側を見てみたいと思います。
まずは発売からの動きを見てみます。発売からの動きをグラフにしてみました。(日販オープンネットワークWIN調べ)
出口さんには熱心なファンがついていることもあり、発売と同時に売上があがっています。特に発売が夏休み、お盆期間の直前だったこともあって、長期休みにじっくり本を読んで考えたいという方にはぴったりだったのではないかと思います。
手元の新聞掲載情報と照らし合わせてみると、9月の20日までの段階での全国紙への露出は日経新聞のみ。思いのほか少ないのです。7日の広告、14日のランキングがその内訳です。ちょうどそこにあわせて山が出来ているのがわかります。
ただ、ネット上はこの作品の話題で溢れ、HONZでももちろんレビューが続いています。一つ一つのつぶやきや記事がまとまって大河のようになって今の勢いを産み出しているのだなあと、いろいろな事を考えさせられました。
どんな方が読んでいるのでしょう。まずは読者層から。
読者の80%以上は男性読者。年配層が多く、50代の男性が最多でした。一方で、哲学や歴史を学んでいる学生の購入もみられます。
『哲学と宗教全史』読者の併読本を抽出してみました。出口さんの本の読者は読書家が多いようで併読本データがたっぷり。今回は2019年1月以降に購入したものランキングを作成してみました。
銘柄名 | 著訳者名 | 出版社 | |
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1 | 『FACTFULNESS』 | ハンス・ロスリング | 日経BP社 |
2 | 『社会学史 』 | 大澤真幸 | 講談社 |
3 | 『上級国民/下級国民 』 | 橘玲 | 小学館 |
4 | 『父が娘に語る美しく、深く、壮大で、 とんでもなくわかりやすい経済の話。』 |
ヤニス・バルファキス | ダイヤモンド社 |
5 | 『続昭和の怪物七つの謎』 | 保阪正康 | 講談社 |
6 | 『資本主義の終わりか、人間の終焉か? 未来への大分岐』 |
マルクス・ガブリエル | 集英社 |
7 | 『もっと言ってはいけない』 | 橘玲 | 新潮社 |
8 | 『お金の流れで読む日本と世界の未来 』 | ジム・ロジャーズ | PHP研究所 |
9 | 『0から学ぶ「日本史」講義』 | 出口治明 | 文藝春秋 |
9 |
『Think clearly』 |
ロルフ・ドベリ | サンマーク出版 |
全体的には歴史ジャンルの本が多く見られました。雑誌では月刊『文藝春秋』が強さを見せています。
ダントツの1位になったのが『FACTFULNESS』でしたが、「数字、ファクト、ロジック」を大事にする出口さんの読者らしい結果とも言えるでしょう。
それでは読者の併読本から気になる本を紹介していきます。
日本の近代は主流派経済学の実験場になっている、と訴える著者が経済学の源流から直近の金融政策までを追って、分析・洞察を重ねた1冊。昨今話題のMMTなどの理論について、その功罪を考えるためのきっかけやヒントにもなるのかもしれません。
”テクノロジーは資本主義をどう変えるか“”我々は資本主義をどう『修正』するべきか“について、国際ジャーナリスト・大野和基氏が世界中の知の巨人、7人へのインタビューを行ったインタビュー集。ポール・クルーグマンの顔写真が目立つことから、クルーグマンの新作かと一瞬思いました。
そもそも資本主義自体が完成形ではない中、劇的なテクノロジー進化によって未来が見えなくなっています。知の巨人たちは未来に何を見ているのか、気になる1冊です。
この紹介をしていると、歴史というものには本当に多くの切り口があるのだなあといつも驚かされます。少し前に「地政学」ブームがありました。その土地に生きる人々、生きられる人々という観点では人口というのも、深い関係にあるもののようです。過去において、人口はそのまま戦力でもありました。一方で、人口を抑制するための様々な策をうった時代や国もあります。超高齢化社会の先がどうなるのか、歴史に学べることもあるのかもしれません。
百聞は一見にしかず。とはよく言ったもので、テレビで連日放映されるようになって以降急激な周囲のラグビー熱を感じます。ラグビー関連の書籍、雑誌は多く発売されていますが、こちらは新書。写真や図表に頼らず「複雑」と敬遠されがちなラグビーの世界を解説してくれている。と評判の1冊です。
著者は元日本代表でキャプテンも務めたという経歴だけでなく、TBS系ドラマ「ノーサイド・ゲーム」にも出演し高い評価を得ています。今後の動向も楽しみ。
今、大人の学び直しがブームです。その中でも歴史は人気科目の一つ。山川の教科書は勢い衰えることなく売れ続けていますが、こちらはその英訳版。英文の教科書を読むと、英語と該当教科の両方に強くなることが出来る。と教わったことがあります。その意味でも一挙両得の1冊といえるでしょう。
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出版業界では少し前から「古典の再評価」というところに光が当たっています。書籍だけでも毎日200点以上の新刊が発売され、書店の棚から押し出されていく一方で、何十年、何百年経っても魅力と評価が衰えない名作、名著に注目が集まるのは非常に良いことだと思います。今回の『哲学と宗教全史』の併読本には、NHKの100分de名著のテキストが多くラインアップされていました。
何よりも、『哲学と宗教全史』との出会いが、この巻末、11ページを割いて掲載されている参考文献への導きになり、多くの人の読書の世界が広がる事を願ってやみません。