府中市美術館の企画展「へそまがり日本美術」(5月12日まで)が予想外の人気だという。禅画からヘタウマまで、傑作とは言い難いが、個性的な絵画を集めた展覧会だ。
なかでも必見は三代将軍徳川家光の「兎図」。切り株の上にちょこんと乗った一匹のウサギがこちらを見つめている。ふわふわでなんとも愛らしいのだ。上様はじつは心優しい人だったのかもしれないと感心しつつ、脱力してしまう。
「へそまがり」というよりも「ゆるい」のだ。この「ゆるさ」は日本絵画だけがもつ特徴なのかもしれない。平安時代の「鳥獣戯画」や江戸前期の「円空仏」などは、同時代の西洋美術にはない、全く緊張感を覚えさせない素晴らしい宝物でもある。
『へんちくりん江戸挿絵本』は山東京伝、葛飾北斎、大田南畝らの手によるへんちくりんな挿画をあつめて、上手に解説した本だ。
たとえば品川宿の悪所で遊ぶ釈迦如来と地蔵菩薩たちの図。焼き魚を肴に宴会をしているのだが、全員後光を背負っているのが笑える。
やがて床が敷かれ、遊女から「(後光を)とって寝なんし」と言われ、釈迦は布団のなかに入り込む。なにしろ寝釈迦なのだ。しまいには地蔵が釈迦の長唄に合わせて踊っていると、どこからかおひねりが飛んでくるという図。いやはや神も仏もないものだ。
神仏、学問、文学、文様、怪異など、九つの章に分類されて解説されているので、ゆるい絵を見ながら、根底にながれる江戸文化を体感的に理解でいるという仕掛けになっている。
現代人の江戸時代に対する憧憬は侮りがたいものがある。長くつづいている落語や時代小説のブームはもとより、NHKは「ぬけまいる」や「ブシメシ」など、新しい時代劇に力をいれはじめている。それらに共通するのは「ゆるさ」だ。ネット文化が世知辛くなったいま、ゆったりとした江戸時代の雰囲気を味わいたくなっているのかもしれない。
※週刊新潮 2019年4月25日号