小笠原は東京から船で24時間以上かかる、東洋のガラパゴスといわれる特殊な自然の宝庫だ。
そこの固有種である「アカガシラカラスバト」は平成5年に国内希少野生動植物種に指定された貴重種だ。2001年ごろには推定個体数30羽。あまりにも少ないため島民も見たことのないこの鳥だったので、関心を向ける人は少なかった。
だがでこの島で産卵、子育てをする小笠原を代表する大型種のカツオドリとオナガミズナギドリの激変が、ノネコの仕業であることが写真にとられ、危機感を持った海鳥の生態調査を行っている研究者のNPO法人「アイボ」や賛同する住民たちによってノネコの捕獲作戦が始まる。
15年ほど前にタモリのトリビアの泉という番組で、ネコはどれくらい大きな魚を運べるかという実験を行った。いまでもyoutubeで見られるが、なんと自分の体より大きな魚も運んでいた。オオミズナギドリは羽を広げると180センチ以上になる大型の鳥だが、減少した原因を調べるために仕掛けられたカメラの中に、ノネコがそれを襲い運んでいる写真が撮られた。
急激に数を減らしているアカガシラカラスバトもノネコが原因の一因だと考えられれる。しかし国は積極的に駆除にたいする指針をくれない。島民たちへネイチャーガイドや専門家の熱心な説得により、猫の捕獲が始まったのは2008年のことだ。
捕獲といってもジャングルのような山の中、その上、ノネコは野生で頭がいい。仕掛けを作る人間との知恵比べは手に汗にぎる。
問題になったのは捕獲した猫をどうするか、だ。おりしも、国内で保健所での殺処分をなくそうとしている時期でもある。まして野生となってしまったノネコにはどう接したらいいのか。
解決の糸口は見つかった。殺処分は一匹もせず、みんな幸せにくらしている。この本のキモはここだ。(「小笠原ネコプロジェクト」参照)
この10年で777匹の猫が捕獲されたが、島にいるノネコが全滅したわけでない。むしろ猫がいなくなるとネズミが増え、それによって残った猫が太って繁殖が多くなり、また猫の数が増えるという繰り返し。だが、問題のアカガシラカラスバトは知る人ぞ知る、から民家にまで下りてくる小笠原の自然のシンボルのようになった。
池の水を全部抜く、という人気番組のせいで外来種の駆除がいいことのように言われる昨今、同じ生き物をどうやって生かすか、共存させるか、今後はその問題を一番に考えるべきで、本書はその一端の知恵を示してくれる。