悶絶かわいい! 『子どもの着物大全』

2018年8月13日 印刷向け表示
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かわいくてたまらん出版賞受賞決定! と勝手に叫びたくなる「かわいい」のオンパレード。七五三のあの初々しさ、節句の飾りの華やかさ、と日本の子どもの可愛らしさが凝縮されている、昔ながらの子ども着物。年中行事や年齢に応じた装い、文様、結び方など「日本子ども衣服史」にもなっている。B5判に写真等400点が満載で、「やっぱりかわいい」と後で読み返して頷くこと必至だ。今よりよほどおしゃれかも。眼福なり。

「年中行事や成長に合わせた着物、文様、帯結びから被布、羽織袴、背守りなどの知識までを紹介した決定版」となぜかタイトルにこんな一文が含まれるほどの内容だ。制作サイドも熱いのだ。
子どもが誕生してから13歳に成長するぐらいまでの間、行事ごとに子どもがどんな着物を着ているか、その際の風習や着る方法まで細かくまとめてある。とにかくその詳細が、見て、読んで、楽しい。

写真1 甚平、“つきとほし” 

 例えば、最近来ている男の子をよく見かける「甚平(じんべい)」。「木綿や朝でできた単(ひとえ)の男性・子ども用室内着」で、「大正時代に大阪で着られるようになり、全国に広が」ったのだそうな。上着のみだったのが昭和40(1965)年ごろから半ズボンもつけて販売されるようになったとは知らなんだ。脱ぎ着が楽で、汗を吸うので子供が夏に着るには最適だ。夏に生まれた赤ちゃんへの贈り物にもよくなる、とも書いてある。

その年齢で、ある種の着物を着る意味や文様の意味まで丁寧に言及されており、「この成長の段階だからこういう着物を身につけて育っていくわけか」と、写真で着物を確認しながら伝統行事と着物の関係を確認していける。

ひとつ「背守(せまも)り」という風習が印象に残った。縫い「目」が魔除けとなると考えられていたため、背中に縫い目がない一つ身の着物には、この「目」の代わりに、魔を撥ね返す「糸印」をつけたという。それを「背守り」というのだ。男児用は左斜め、女児用は右斜めに針目を入れる、など決まっているのだそう。子どもを思う親の気持ちが素直に伝わってきて心温まる。着物なんてどれも同じ、なんて思っていたら大間違い。細部に暗号が隠されているのだ。

(左)写真2 背守りをつけた祝い着。「白綸子地市松格子に折鶴文様女児祝い着」
(右)写真3 背守り(左上より鳥兜[舞楽で用いるかぶり物]、かぶ、松に宝船、折鶴、蝶、金魚、まりと羽子板、金嚢)。

子どもを大切にする気持ちは、宝尽くし文様にも表れている(写真4)。生まれて初めて神社におまいりをする「初宮まいり」の祝い着には、両親なのか祖父母なのか親戚なのか、加護を祈る気持ちが溢れている。宝尽くし文様は他にも男の子のものなど数種が掲載されている。日常的に着物を着ていた時代は、七五三など子どもの一大イベントのためなら、着物の染や帯を織るのを発注するところから始めたという。京都の呉服商の古河家のお宮まいりの様子は、清々しささえ感じる(写真5)。

(左)写真4 初宮まいりの祝い着。「桜色地ねじり梅に桜文様一つ身女児祝い着」
(右)写真5 古河家の着物「浅葱色から若竹色ぼかし格子文様五つ紋男児祝い着」

さて、それでは唯一無二のこの本は、どうやって生まれたのか。

ほとんどの時間を洋服で過ごす子ども達たちに「子どもの着物」を伝えたいという思いから、本書は生まれました。

こう前書きで書く著者の以内惠子さんは、NPO法人京都古布保存会理事長として着物や布の保存、修復、展示活動に携わる。服飾研究家でもあり、京都府の支援のもと大原女や舞妓、宇治の茶摘み衣装などの調査も行なっているそうだ。これもおもしろそう! 

一部のコラムを執筆し、編集に携わった中島悠子さんはといえば、京都の中心部、「御幸町御池上る」の界隈で育ち、七五三の小物卸問屋で勤務した経験もあるというから(その後に茶道誌編集にも携わったとか)、制作陣がまずもってテッパンなのである。

着物については、例えば食べ物と同じなのだろう、各地で呼称や習慣が違うので、主な取材先である京都の慣例に従っているとのこと、それが成立したのは、この二人が京都で培ってきた人脈や信頼の賜物だと想像に難くない。だからこそ、細かい差異にできる限りこだわるこの本の特徴が生まれたのだ。

鮮やかな、浦島太郎の物語を描いた着物を紹介しよう。

写真6 「黒色地宝尽しに浦島太郎文様五つ紋一つ身男児祝い着」。

写真7 「半尻と指貫」。「半尻」とは、「童装束」の一つで狩の時に成人男子が着ていた「狩衣(かりぎぬ)」の後ろ丈を短くしたもの。下に履いているのが「指貫」。

「深曽木の儀」とは、五歳の男児が碁盤から飛び降りる行事。碁盤は高天原、ないしは宇宙を表し、「神のうち」にいる子どもが飛び降りることでこの世に降り立つことを意味するのだそう。

画家ないしは意匠家が携わったと思われる、まさに絵画のように描かれた正月の晴れ着。

写真8 「青藤色綸子地段替り松に小鳥文様五つ紋一つ身祝い着」

 「子宝」という言葉を聞いたことがあると思う。これは、「万葉集」で山上憶良(660〜733頃、万葉集に多くの歌を残す歌人、官人)が「子等を思ふ歌」として詠んだ歌に端を発するのだそうな。 

銀も黄金も玉も何せむに優れる宝 子にしかめやも
(銀も金も宝玉も子宝におよぶことがあるだろうか)

当たり前のように使っている言葉でも、生み出した人がいるものなのだ。この歌あって「子宝」という言葉が人の口にのぼるようになり、慈しみを説く仏教の影響でその見方は強化されたようだ。

また、現代では子どもは簡単に死ななないが、それはごく最近のこと。生存率が非常に低く、子どもの突然死もよくあることだった。人口動態調査が始まった1899(明治32)年の乳児死亡率は15%。現在は0.2%だが、1%を切ったのは1976(昭和51)年のこと(大まかネット調べ)。つくづく、子どもは元気で当たり前、なんていうことは最近のことなのだった。

「七歳までは神のうち」と民俗学ではいうほどで、だからこそ、七五三も家族をあげてお祝いしたのだろう。子供が突然いなくなる場合は「神の世界に連れ戻された」と考え、無邪気に遊んでいると「神の世界に住んでいる」と信じたそうな。

だからというわけではないけれど、やっぱり、子どもはかわいい。

(写真について)
撮影:野村正治
着物は以下の通り:
1 SOU・SOUわらべぎ
2 特定非営利活動法人京都古布保存会所蔵
3 日本玩具博物館所蔵
4 まつや古河所蔵
5 株式会社古川 協力:株式会社髙島屋
6 綺陽装束研究所所蔵 モデル:望月 晟
7 山口家住宅 苔香居所蔵
8 日本玩具博物館所蔵

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