2017年7月、安倍晋三首相が「将来の首相候補」として守り続けてきた政治家、稲田朋美防衛大臣が南スーダン国連平和維持活動(PKO)の日報隠蔽の監督責任を取って辞任したことを覚えているだろうか。廃棄された文書の存在が発覚し、関係者の嘘が晒された末のことだ。
その1年前、南スーダン首都のジュバで政府軍と反政府勢力との大規模な戦闘が勃発した。現地には約350人の陸上自衛隊の施設部隊が活動していたが、メディアでこれが報道されることはなかった。
この状況の中、南スーダンPKOを追うジャーナリストの布施祐仁が、現地の実態をつかむため情報公開制度を使い、防衛省に関連する文書の開示請求を行った。
開示されたのは13年12月から14年5月までの活動を陸上自衛隊研究本部がまとめた文書だ。ここにはその当時の生々しい戦闘の様子が書かれていた。だが時の国会では議論に上ることもなかった。
16年7月の参議院選挙で大勝した安倍首相は内閣改造を行い、稲田朋美氏を防衛大臣に起用する。安倍首相の強い意向が動いた結果だとマスコミは指摘した。
9月に入り、ジュバの自衛隊宿営地の隣のビルで大規模な銃撃戦があったことが報道される。すぐさま布施は情報公開請求を行うが期待した文書はひとつもなく、日々の詳細を報告する「日報」も含まれていない。
あらためて請求を行うと、決定通知書には「日報はすでに廃棄された」とある。これはあり得ない。野党だけでなく自民党からも追及が始まり、2か月後、電子情報の形で発見されたのだ。政府は追い詰められていく。
共著者である三浦英之は朝日新聞のアフリカ特派員だ。南スーダンPKOを現地で追いかけていた。日本の政治を追う布施と、戦闘や避難民の姿をつぶさに見ることができる三浦。ふたりはタッグを組んだ。それぞれの立場で交互に書いた文章は鮮やかな対比で読む者の胸に迫ってくる。
「森友問題」一色の報道のなか、防衛省による日報隠蔽事件は忘れられつつある。だが本書を読めば杜撰な文書管理や現政権内での保身、国民に対する欺瞞の根は同じ場所にあると痛感するだろう。読み進めるうちに怒りで体が熱くなってくる。
(*注:この原稿を書いた直後に「ない」とされてきたイラク派遣の日報が発見されたことが報道された)
南スーダンPKOは17年3月撤収が決定し、派遣されていた自衛隊員は全員無事に帰国した。
事実を捻じ曲げた上に文書を隠蔽・改竄したその裏側を詳細に追った衝撃のルポルタージュである。(週刊新潮4/12号より加筆して転載)
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日本が初めて本格的に参加したカンボジアのPKO。そこで亡くなった隊員の真相が23年後に明かされる。
共著者、三浦英之の第13回開高健ノンフィクション賞受賞作。麻木久仁子のレビュー 刀根明日香のレビュー