「礼儀正しい始まりは、愚かしい始まりである」
これはチャ-チルの言葉だ。スピーチやプレゼンにおいて、一番大事なのは第一声である。それなのに「みなさまの前でお話しできることを嬉しく思います。」というような、ありきたりで退屈な言葉で話しをだす人がいかに多いことか……。
「Boring boring」退屈で、くだらない!そういった社交辞令をスピーチにいれたければ話の途中に挟み込めばよい。とにかくはじめに相手の心をつかまなくてはなにも始まらないのだ。集中力が持続しない今の時代において、これはスピーチに限らず、すべてのことに言えるのではないだろうか?動画でも文章でも、始めこそが肝心なのだ。
始めこそが肝心という話をしているのに、文章のはじまりが退屈だと何の説得力もない!と思って、冒頭の文章をいつもより高めのテンションで書いてみたのだけど、少しは効果が出ているだろうか?
私は人前で話すのがとても苦手である。加えてプレゼンもうまくない。初対面の人と話すと相手の目を見ず、早口になり、最終的にはしどろもどろになってしまう。そんな話下手な自分が、読んでものすごく勇気づけられた本がある。今日紹介する『リンカーンのように立ち、チャーチルのように語れ』だ。
アメリカの大統領4人に使えたスピーチライターが、スピーチのテクニックを紹介した本である。人前でスピーチをするという機会はあまり多くないかもしれない。しかし初対面の人との挨拶や、商談、プレゼンなど、人前で話す機会というのは誰にでもある。そんなとき、相手に強い印象を残す方法がこの本には書かれている。営業を生業にしている人にはこの本が強い味方になるに違いない。
紹介されているテクニックは21個。沈黙・第一声・外見・結論・短く・引用・数字・資格資料・ウィット・たとえ話・ジェスチャー・読み方・詩・決め台詞・質問・強調・能動態・資金調達・スイッチ・締めくくり・そして……我が道。これらのテクニックをチャーチルやリンカーンをはじめ多くの大統領や首相といったリーダーを例に紹介している。
例えば、相手から質問をされた際に、すぐには答えず、あえて間をあけて沈黙することで、重みと知性を醸し出す。下を向いているときには決して話し出さず、話すときは必ず聞き手を見つめながら話す。一番伝えたいことの前に、少し間をあける。チャーチルの葉巻のようなトレードマークで人々に強く印象づけるといったすぐに真似できそうなことをはじめ、 強い言葉を作り出すC・R・E・A・M(クリーム)。「対比(Contrast)」「脚韻(Rhyme」「こだま(Echo)」「頭韻(Alliter-ation)」「比喩(Metaphor)」。言葉を短く切ることで散文のような文章を詩のよう話し、強い言葉にする方法など、スピーチに限らず、文章を書く際や、ビジネスで使えそうなテクニックが満載だ。特に演説の天才であるチャーチルから学べることはたくさんあるだろう。
そういえばそろそろチャーチルの映画が公開されるはずだ。いつから公開だったかな?と思って調べたところ、ちょうど明日から公開だった。なんて偶然なのだろう!『Sid&Nancy』の頃から大好きなゲイリー・オールドマン(『Leon』でのヤク中の警官役とかほんと最低で最高よね!)がアカデミー賞ではじめて主演男優賞を受賞した『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』でも、この本に書かれているようなチャーチルのスピーチテクニックや名言がたくさん出てくるに違いない。
この本を読んだ後に映画をみたら、よりチャーチルのスピーチテクニックが理解できるかもしれない。最後に予告編にも出てくるチャーチルの言葉を引用してこのレビューを締めたいと思う。始まり同様、締めくくりが重要である。冴えないプレゼンでも、胸に響く終わり方さえできれば、大きな拍手をもらえることを忘れてはいけない。
わたしたちは海岸で戦うだろう。(we shall fight on the beaches,)
水際でも戦うだろう。(we shall fight on the landing grounds, )
街で、(we shall fight in the fields and in the streets,)
丘で、戦うだろう。(we shall fight in the hills; )
わたしたちは決して降伏しない。(we shall never surrender)
話下手な人も、決してあきらめるな。この本を読んで戦う準備を始めよう。チャーチル曰く、「準備を始めたときが、本気になるとき。」なのだから。
前ロンドン市長で現英国の外務大臣ボリス・ジョンソンが描くチャーチル。
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