本書は、ナショナルジオグラフィックの人気シリーズ、「絶対に行けない 世界の非公開区域99」「絶対に見られない 世界の秘宝99」「絶対に明かされない 世界の未解決ファイル99」に続く、「世界の謎99」シリーズの第4弾である。
古代文明から超常現象、宇宙、生命までも含む未解明ミステリーのうち、世界の謎を99個を集めて、現代科学で何がどこまで分かっているのかを、写真とイラスト付きで分かりやすく解説している。
テーマは、以下に掲げる「文明の足跡」「宗教、神話、超常現象」「生命の世界」「深遠なる自然の力」「不可解な消失」の5つである。
[文明の足跡]
カルナック列石/ギザの大ピラミッド/ストーンヘンジ/タリム盆地のミイラ/インダス文明/ファイストスの円盤…
[宗教、神話、超常現象]
イスラエルの10部族/エデンの園/ノアの箱舟/契約の箱/アーサー王…
[生命の世界]
動物の道しるべ/利他的行動/深海の生き物/長生きする木々/不死の生き物…
[深遠なる自然の力]
宇宙の誕生/重力/反物質/暗黒物質/宇宙線/太陽のコロナ…
[不可解な消失]
ネアンデルタール人/海に沈んだ都市ヘリケ/アトランティス/ロアノーク植民地/フランクリン遠征隊…
そうした中で、私が独断と偏見で選んだ、本書の世界の謎トップ3は以下の通りである。
1. 「意識の源はどこにあるのか?」(生命の誕生)
2. 「宇宙はどのように誕生したのか?」(深遠なる自然の力)
3. 「万物の理論は果たして見つかるのか?」(深遠なる自然の力)
生命の誕生自体が不思議に満ちているが、何にも増して不思議なのが「意識」の問題である。人間にまつわる全ての問題は、主体と客体の関係性に帰結すると思う。客体を突き詰めるのが自然科学で、この手法を用いて主体である我々人間の意識の問題に取り組んでいるのだが、現時点では全く歯が立っていない。
逆に、主体の側からのアプローチが哲学の役割ということになるのだろうが、これも意識の本質にたどり着いたとはとても言えない状況にある。主体が主体を客体として扱うというトートロジーの問題に行き当たってしまうからである。
今、AI(人工知能)の分野が急速に発達してきて、AIが人間に取って代わるということが言われ始めているが、それでもAIによって意識の問題が解決できるとは思えない。感覚的な議論になってしまうが、自分が自分であるという意識や確信がどこから生じるのかは、AIからは導き出せないように思う。そして、この問題が未解決なうちは、世界における宗教の居場所というのも、なくなることはないだろう。
人間の意識という主体の問題を除けば、何と言っても宇宙の問題が謎に満ちている。最新の宇宙論では、宇宙の始まりについて無から有が生じるということも言われているが、138億年前、宇宙誕生の時に何が起きたのかは、観測によっては解明できない以上、理論的に突き詰めるしかない。
しかしながら、現時点では、自然界に存在する4つの力、即ち、電磁気力(electromagnetic force)、弱い力(weak interaction)、強い力(strong interaction)、重力(gravity)を統一的に記述する「万物の理論」(Theory of Everything)が見つかっていない以上、宇宙の始まりを理論的に説明するのは難しいように思う。
しかも、それ以前に、観測から導かれる、宇宙の物質の27%を占めると言われているダークマター(暗黒物質)や、70%を占めると言われるダークエネルギー(暗黒エネルギー)が何たるかも全く分かっていない、つまり、我々は宇宙の大半を構成する物質が何なのかさえまだ知らないのである。
これらに対して、超常現象としては、UFO、ロズウェル、バミューダ・トライアングルが出ているが、UFOの類の話は、結局のところ宇宙論や生命論に還元されてしまうので、わざわざ取り上げるまでもないと思う。
個人的には、いわゆる宇宙人が地球に来ている可能性は限りなくゼロに近いと思うが、それよりは宇宙や生命誕生の謎の方が重要で、それが解明できれば宇宙人が地球に到達できる可能性についてもまともな議論ができると思う。
その他、歴史好きの人にはたまらないような項目が幾つも出てくる。個人的には、「インダス文明はなぜ滅んだのか?」「秦の始皇帝陵の内部はどうなっているのか?」「英国の英雄アーサー王は実在したのか?」「失われた契約の箱はジンバブエにある?」「聖杯はどこにあるのか?」「アトランティスは実在したのか?」などが興味深かった。
特に、秦の始皇帝陵は、陝西省西安北東30kmの驪山北側にあると場所も特定できているのだから、早く内部調査を進められないものだろうかと思う。
いずれにせよ、過去に起こったことだけに、歴史の話題は意識や宇宙の問題に比べて安心感を持って読むことができる。
ナショジオには、この他にも、「いつかは行きたい 一生に一度だけの旅 BEST500」などのシリーズもあって、こうしたシリーズ物を読み出すときりがないのだが、とにかく写真が綺麗なので、理屈抜きで楽しめるところが良い。
写真の掲載基準はきわめて厳格で、Wikipediaによると、カメラマンの撮影してきた写真のうち、誌面に載るのは1万枚の中でわずか1-2枚だという。日本語版の発行元は日経ナショナルジオグラフィック社で、このホームページを見たら、日経ナショナル ジオグラフィック フォト アカデミーなる、写真愛好家のための講座も開設していた。
ナショジオでは、1997年にそれまでの100年以上の同誌の内容をデジタル化してCD-ROMとDVDに収めた”The Complete National Geographic”を発売して、これを毎年更新しているそうだが、私も完全引退した暁には、これを購入して日がな眺めていたいと思う。