著者は『最貧困女子』や『老人喰い』などのルポ作品で、犯罪現場の貧困問題をえぐり出してきた気鋭のノンフィクション作家だ。
働き盛りの44歳。作家稼業だけでは食えなくなってきた出版界にあって、社会派マンガの原作もこなしながら、いささか問題のある奥さまと、なんとか暮らしてきた。奥さまの問題とは、重度の発達障害を抱えたまま大人になっただけでなく、リストカットを繰り返し、さらには悪性の脳腫瘍まで患ってしまうという多重の不幸である。
さらなる試練が2人を襲う。なんと著者自身も脳梗塞で倒れ、高次脳機能障害を抱えてしまったのだ。トルストイは、すべての幸福な家庭は互いに似ている。不幸な家庭はそれぞれの仕方で不幸である、といった。まさに鈴木家は不幸が重合した典型に見える。40代カップルが抱える問題としては重すぎるだけでなく、多すぎるのだ。本書はそんな2人の18年間を切り取った実録である。
読みはじめる前は、悲惨な闘病記ではないかと想像した。だが、読み終えたときの感想はまったく逆だったのだ。人生とは誰にとっても豊かであり、愛とは相手を理解することだということを温かい気持ちのなかで、ほっくりと理解することができた。そして、会ったこともないこのカップルを大好きになった。
全編にわたり文章は明るく軽快だ。しかし、前向きに必死に頑張るというようなものでもない。「家事力ゼロだった奥さま」が、なぜゆえに「超はたらける奥さま」になったのか、その時、ご主人は何を感じ、どう考えたのか。家族とはなにか、子供を育てるとはどういうことか、幸せとはどんな状態なのか。奥さまのキュートな言葉や、日常生活から著者は学んでいく。座右の愛読書になった。
※産経新聞書評倶楽部転載