何というおどろおどろしいタイトルだろうか。普段お世話になっている旧知の著者からゲラが送られてきたので、少しは読まなければ申し訳ないと思って読み始めたら、これが面白くて読むのを止められない。
本書は2人の尖った個性がお互いに本を選んで3か月に1回、その本について縦横に語り合った対談集である。選ばれた本も秀逸で(知らない本が半分ほどあったが)、2人の対談も奔放の限りを尽くす(ということは密度にも濃淡があるということだが)。これで面白くないわけがない。こうして、あまり例をみないユニークで尖がった書評(?)が出来上ったというわけである。
選ばれた本は次の8冊。『ゾミア 脱国家の世界史』『世界史の中の戦国日本』『大旅行記』(イブン・バットゥータ)『将門記』『ギケイキ 千年の流転』『ピダハン「言語本能」を超える文化と世界観』『列島創世記』『日本語スタンダードの歴史』。おそらく、ほとんどの人があまり手にしたことのない本ばかりだろう。
誰もが読まないであろう難解な本を2人で書評して一体誰が読むのか、という疑問が湧くかも知れない。そう思う人は、食わず嫌いをやめてまず本書を手に取ってほしい。もちろん、原典を読んでいるに越したことはないが、原典を読んでいなくても十分読書の醍醐味が味わえることに気付くだろう。それはなぜか。
著者2人は、『世界の辺境とハードボイルド室町時代』というベストセラーをものしている。これはソマリランドと室町時代が舞台だが、僕たちは、ソマリランドと言えばおそらくお隣のソマリアの内戦ぐらいしか思い浮かばないのではないか(ソマリランドは治安が保たれている)。
また、室町時代もそれほど知られているわけでもあるまい。金閣寺や銀閣寺、南北朝の対立、それに最近では応仁の乱ぐらいがせいぜいではないか。それでもベストセラーが生まれたのは、ソマリランドや室町時代を題材に2つのユニークで尖った個性がぶつかりあって何とも形容のし難い化学反応が生じ(ソマリランドと室町時代の共通項など牽強付会の最たるものと思うのが通常の精神構造だと思うが実はそうでもなさそうなのだ)、読者はその反応を存分に楽しんだのだと思う。
本書も同じことではないか。8冊の本は、2人の個性を引き出し化学反応を促進するいわば触媒の役割を担っているのだ。それにしても、罪作りな本だ。五感が疼き、読んでいない原典を無性に読みたくなってしまうではないか。ああ、僕に時間がもう少しあれば、このような1対1のゼミを受講してみたい。心からそう思った。