タイトルに惹かれて『どうすれば幸せになれるのか科学的に考えてみた』という本を買ってみたら、これが思いのほかおもしろかったので紹介したい。この本は予防医学研究者の石川善樹とニッポン放送アナウンサーの吉田尚紀の対談本である。
中身を見ずに買ったところ、読んでいる途中で、過去に両者の本を読んでいたことに気がついた。吉田尚紀の『なぜ、この人と話をすると楽になるのか』は、自称コミュ障の自分にとってはとても救いになったコミュニケーション本の名著で、過去にどこかの媒体で紹介していたことがあったし、石川善樹の『友達の数で寿命が決まる』にいたっては過去にHONZで紹介していた。
石川善樹という人がとにかく変わっていておもしろい。彼のおもしろみがとにかくあふれているのが、第4章の「科学的にみると恋愛と結婚って何ですか?」というところである。
彼は高校までずっと男子校に通っていたので、大学デビューをしようと思っていた。でも女性とは何を話したらいいのかわからない。そこでまずは女性の研究をしようと思ったのだという。そのために世間の女性を観察することからはじめ、彼女をつくるとはいったいどういうことなのか?を考えたそうだ。なんだか森見登美彦の小説に出てくるヘタレ大学生のような考え方である。しかも考える方向が確実に間違っていて、明後日の方向すぎてついつい笑ってしまう。そして、そこで出た結論はというと、
3つの壁(「告白する」←「デートに誘う」←「連絡先を聞く」)を乗り越えさえすれば彼女ができるはずなんです。「こんなの数学の問題解くのに比べたら簡単な問題じゃねーか。」と思ったんですね。
とのこと、また
受験と彼女づくりでけっこう一緒だなと思ったのが、「細かいバリエーションは違うけれど、プロセスにおいては基本的に似たような問題が繰り返し繰り返し出題される」ということ。
それならば受験対策をすればよいということで、女性に声をかけるため、糸くずを持ち歩くなどの妄想を重ねた。また女性から「彼女いるんですか」っていう質問をされたとき、どう返すのが正解だろう?ということを考えた。その答えは「いる。しかもめちゃくちゃうまくいってる彼女がいる。長く付き合っている。」というものだ。なぜそう答えるといいのかは本書を確認してもらうとして、このような妄想ばかりをしていた彼は、自分が女性に対して不誠実であるということに気づいた。彼女をつくるって受験じゃねーんだと。って気づくのが遅いよ。
そう思ってからの行動がまた常軌を逸している。(褒めてます)女性はどういう男が好きなのだろう?ということを知るために、なんと国会図書館で過去30年分の女性誌を読み漁ったというのだ。努力の方向が完全に間違っていると思うのだけど……。そこで出た結論は3位「かっこいい人」、2位「おもしろい人」、1位「頼りになる人」というものだ。3位、2位は無理だとしても、1位ならいけるかも、と思い立った石川青年はそこで「じゃあ女性は何に困っているんだ?」と考えた。
30年分の女性誌を調べた結果、女性が一番困っているもの、それはダイエットだったのだ。そこで彼はダイエットの研究をはじめたという。動機が不純すぎると思うけど、とりあえずそこのところは置いておこう。研究を始めるうちにダイエットの研究がおもしろくなり、彼女をつくるとかどうでもよくなって、気づけば20代を終えていたそうだ。
ここまでの流れだけでもめちゃくちゃおもしろいのだけど、続きはまだある。そんなんじゃ結婚なんてできないだろう?と誰もが思うに違いない。しかし彼は現在、結婚して1児の父である。ではどうやって結婚したのか。これがまた普通じゃなさ過ぎて笑ってしまう。
「人はいつ結婚をするのか」を考えた結果、「結婚は決断が先にある」と気づいたのだ。
「いい人がいたら結婚しよう」といううちは、一生結婚できない。結婚するという意思決定が先にあって、意思決定をした人だけが結婚できてそうだな、と。
そこで31歳の1月1日に「よし、結婚してみよう」と決めたそうだ。当時付き合っている人もいなかったにもかかわらずだ。その3か月後の春、彼は知人に誘われて人生ではじめて花見に参加した。結婚すると決めたのだから、出会いがあるかもしれないと……。そこでのちに奥さんとなる女性と出会うのである。始めていった花見で出会った女性と結婚する。これだけなら、少しロマンチックな気がしなくもないけれど、彼の場合は違う。ある種ホラーの様相を呈する。
その花見で彼女には、結婚とはこうやってやるものです。僕はもう決めました、あなたに意思決定したので、あとはあなた次第です。というようなことを話したという。初めてあった人からそんなことを言われたら、さすがに怖いと思うんだけど……。そこから半年は彼女から無視され続けたって、そりゃそうだ。それ一歩間違えればストーカーだもの。
それでも彼は「この人と結婚する」と意思決定をしているからと、その彼女に対し会うことをお願いし続けたところ、1年後くらいにはじめて2人で会うことになった。そこで彼は財布を忘れるとかいうウルトラCを決め、さすがに2度目はないだろうと本人も思っていたけれど、それでもあなたと結婚するということはもう決めているのだからと、あきらめずにアタックし続けたことで、ついに相手が折れて結婚するに至ったという。そのあとで彼は元も子もないこと言っている。
結婚とは「この人がいい」じゃなく、「この人でいいや」
確かにそうかもしれない。と、これを読んで思ってしまったけども、いろいろ失礼じゃないか?それは。研究者的な視点から「この人でいいや」と思ってもらうためにはどうしたらいいのか?ということもその続きに書かれている。恋愛本ではないけれど、その部分は間違いなく使えると思うので、婚活中の人はぜひ参考にしてほしい。ただし彼の真似だけは推奨しない。やっぱり、それストーカーじゃないか?と思ってしまうし、こんな人が身近にいたら怖いからだ。
それにしても石川善樹という人の考え方はほんとにおもしろい。表題の『どうすれば幸せになれるか科学的に考えてみた』という話もエビデンスをもとに話をしている。その中でも
「世界を変えようと思うなら自分が変わればいい」って言葉があるんですけど、自分が変わると世界は勝手に変わりますよね。
というような言葉などは心に響くものがあった。対談本というのはあんまり売れないと言われているけれど、この本は笑えるだけじゃなく、とても為になるから、ぜひとも多くの人に読んでほしい1冊である。