著者は「米海軍きっての天才」といわれてきた元NATO欧州連合軍最高司令官だ。トランプ大統領とは正反対にグローバル化を擁護する立場で、TPPを支持し、移民を受け入れ、中国とは軍事的手段を必要としない文化的交流を発展させるべきだと説く。
日本をアメリカにとって最重要な同盟国と位置付け、民主主義国である日本、米国、EUが世界に冷戦なき新しい秩序を創るべきだと訴える。
昨年の大統領選挙でヒラリー・クリントンが勝利していたら、外交の専門家としてホワイトハウス入りは確実だといわれていた。
原書のタイトルは『シー・パワー』。まさに海の地政学なのだが、たんなる軍事外交専門書に留まってはいない。「七つの海」の戦史や現状分析、軍人としての海での経験や、船乗りとしての海への愛情が、ときに一編の詩のように語られ、海好き、歴史好きの読者にもたまらない。
どの章においても、若きころの士官候補生として、また熟成した司令官として赴いた世界中の海での体験談をきっかけに、時空を駆け巡るがごとく古代から現代までの歴史を俯瞰する。
ときに小説や映画を引き合いに出し、読者は著者とともに世界中をクルージングしているイメージを持つかもしれない。戦略提言の書であり、最高の頭脳を持つ提督の回顧録でもある。それと同時に秋の夜長に向けたすばらしい読み物でもある。
各章末に「アメリカが果たすべき役割」という、箇条書きのまとめが付く。それはけっしてアメリカ人にとってだけ意味があるものではない。日本人からみても納得できるもので、ものごとを地球規模で考えるきっかけになるよきテキストになっている。視野を広げるためにも読んでおきたい本だ。
※産経新聞書評倶楽部より転載