都議選の声が聞こえ始めた6月上旬、我々のもとに「ものすごい隠し球があるらしい」という噂が飛び込んできました。出版業界というのは隠し球が好き、発売して内容が明らかになってからよりも、内容がわからないうちのほうが盛り上がるくらいのものです。
で、その隠し球。どこぞの政治家がものすごい爆弾発言をしているのでは? とか、タレントの離婚か? とか(郷ひろみの『ダディ』以後、隠し球ネタの定番)様々な噂が錯綜するなか姿を現したのが『小池百合子写真集』でした。
そのときの反応とか、騒ぎとか、感想とか諸々はすべて割愛して、いつものデータにうつりましょう。
まず、売れ方を見てみましょう。下記は日販オープンネットワークWIN調べの日別のPOS売上データです。
面白いもので、都議選の公示日(6/23)から選挙当日(7/2)は、運動が活発だったにもかかわらず数字は落ち込む傾向にあります。この期間中は、全国紙への広告出稿やテレビでの取り上げがなかったことが最大の理由でしょう。それ以降は様々なテレビで取り上げられまた動きが出てきています。選挙が始まれば本の動きが良くなると思いがちでしたが、本人の露出があっても商品紹介がないと本がなかなか動かないようです。そういったことが見える面白い事例となりました。
続いて、読者層を見ていきましょう。
残念ながらサンプルデータが少なかったものの、明らかに購買層のピークは70代。次いで60代という結果に。写真集として見ると異例の購買層グラフを描いています。
参考までに、小池知事の座右の書として売れに売れた『失敗の本質』という本がありますが、最も話題となった昨年10月の1ヶ月間に購入した方々はこういった購買層でした。
続いて併読本です。上位3位はこちら
ランク | 書名 | 著者名 | 出版社 |
---|---|---|---|
1 | 『知らないうちに』 | 渡辺麻友 | 講談社 |
2 | 『天才』 | 石原慎太郎 | 幻冬舎 |
3 | 『東京大改革小池百合子の戦い』 | 宝島社 |
なんと1位は「まゆゆ」の写真集。となると、写真集好きにも受け容れられているということでしょうか。
これに続いて国谷裕子さんの『キャスターという仕事』が読まれていたり、壇蜜さんの本が入っていたり。書店さん、どの売場に並べるかを悩んだろうな、と苦労が偲ばれる併読品ラインナップとなっていました。
さて、それでは注目の併読商品を紹介していきます。
スポーツノンフィクションの代名詞としてこのタイトルをあげる人も多いでしょう。山際淳司という作家を世に出した1冊とも言えます。野球は9回裏からが勝負とよく言われますがまさにこの作品はそれを体現しています。すでに世に出ている野球ノンフィクション12編を再収録した作品集。解説が河野通和さんというところも一つの読みどころです。
今年の10月、ウルトラセブンは放送開始50年を迎えるのだそうです。今でも様々な機会に再放送され、新たなファンを増やし続けている名作。アンヌファンは広い世代にわたっています。アンヌ隊員自らによる「ウルトラセブン解説」もあるので、セブン好きにもぜひ手にとっていただきたい作品。
小池百合子知事との対談が掲載されていることが、併読率の高い理由でしょう。都バスの各系統始発から終点までを乗車することで見えてきたことから、東京に隠された秘密を読み解くという本書。社会学者ならではの視点から、なかなか我々では気づかない事実をあぶりだしています。
新渡戸稲造は『武士道』も過去ベストセラーになったことがありましたが、この夏は『修養』が注目を集めそうです。当時からグローバルな視野を持っていた著者は、未来の日本を担う青年たちに向けてこの本を記したと言われています。過去、様々なバージョンが発売されてきていますが、ここに新版が登場しじわじわと広がりを見せています。孫子の兵法や学問のすすめなど子ども向けの解説本も大ブーム。これに続く流れになるでしょうか?
今回の併読本リストは、上品、品格といったキーワードがあちらこちらに見られました。皇室関連の本も良く読まれていた印象もあります。品格のあるステキな年の重ね方や生き方を求める方たちにとっては、小池百合子という人はひとつのロールモデルなのかもしれません。
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小池百合子写真集、そしてその併読本はどことなく昭和の香りのラインナップとなりました。選挙の盛り上がりがこれとイコールではありませんが、政治関連作品を見てもなかなか若年層に本は届いていません。
ネットを通じてアクセス出来る情報以上の深い情報が本にはたくさんあります。今回見た様々なデータからは若者の政治参加の難しさやハードルを感じました。確かな情報を見極めお薦めしていくのも私たちの仕事なのだと改めて考えています。