映画『シン・ゴジラ』が話題を集めています。関連する本、雑誌も多く発売されており書店店頭も盛り上がりを見せていますが、この「ゴジラ」、読者の購買動向からは単なる怪獣映画にとどまらない動きが見えてきました。
『シン・ゴジラ』の公式記録集としては9月に『ジ・アート・オブ・シン・ゴジラ』の発売が予定されています。
今の段階では「シン・ゴジラ」の内幕に迫れる決定打となる1冊がないことがファンの心をよりざわざわとさせている要因でしょう。このため、数々の「ゴジラ」、「エヴァ」関連本が手に取られているというのが今の書店店頭の様子です。
そういったゴジラ関連本の中で最も売れているのが『ゴジラ全映画DVDコレクターズBOX』です。いわゆる分冊百科であり、これまでのゴジラ映画を全て振り返ることが出来るファン垂涎アイテムです。読者層は以下のとおり。
併読している銘柄にも、「円谷プロ」「特撮」といった文字が目立ちます。ちなみに、今回あわせて話題になっているエヴァンゲリオンのファン層を探るために『新世紀エヴァンゲリオン volume14』の読者層を見てみましょう。
ゴジラクラスタの下半分を埋めるような形にも見えます。
この2つのコンテンツのファンが融合すると思うとそれだけでもワクワクしてきますが、そんな中その層を狙った本に話題が集まっています。それがこちら。
発売から間もないため、まだ読者の年代などははっきり見えてきていませんが、上のゴジラ読者に近いクラスタの形が作られ始めています。読者併読本を見てみましょう。(『ゴジラとエヴァンゲリオン』読者の2016年4月以降の併読本、WIN+より)
RANK | 書名 | 著者名 | 出版社 |
---|---|---|---|
1 | 『ゴジラ全映画DVDコレクション』 | 講談社 | |
2 | 『言ってはいけない』 | 橘 玲 | 新潮社 |
3 | 『東京人』 | 都市出版 | |
3 | 『日本会議の研究』 | 菅野 完 | 扶桑社 |
5 | 『戦国夜話』 | 松井 優征 | 集英社 |
6 | 『BILLY BAT [19] 』 | 浦沢 直樹 | 講談社 |
6 | 『組織の掟』 | 佐藤 優 | 新潮社 |
8 | 『戦争の社会学』 | 橋爪 大三郎 | 光文社 |
9 | 『ジブリの仲間たち』 | 鈴木 敏夫 | 新潮社 |
10 | 『格差と序列の日本史』 | 山本 博文 | 新潮社 |
怪獣映画、特撮映画関連本とは一線を画すラインナップになっています。それでは併読本の中から注目本を紹介していきます。
ゴジラ関係・映画関係の本が目立つ中、注目度の高かった関連書です。稀代の映像クリエイターと言われる坂野義光の自伝ですが、この方御年85歳。その年齢にも関わらずまだまだ探求心は尽きることなく新たな企画を打ち出しているのだそうです。そもそもゴジラが飛んだことがあったという事自体にも驚かされますが、ファンならずとも気になる作品でした。
外国人留学生、実習生などが置かれている現代の奴隷労働の実態に切り込んだルポが注目されています。日本礼賛のTV番組が数多く放映される一方で、国内のこういった実態にはメスが入ることはありません。移民がほとんどいない代わりに、留学・実習といった名目で日本に来る人々はいったいこの国にどのようなイメージを抱いて帰国することになるのでしょう。考えされられる1冊です。
小松左京の日本沈没ではありません。かの古典名作で描かれた日本壊滅の様子が殺人級の大雨によってもたらされると著者は説いています。夏の季語となっていた夕立という風情のある言葉は、ゲリラ豪雨というなんとも凶暴な言葉に成り代わってしまいましたが、これも地球温暖化に端を発したものとのこと。世界一水害に弱い年東京が災害を食い止めることが出来るのか、防災観点から知っておきたい事が詰まっています。
今未曾有の田中角栄ブームが到来中です。書店店頭にも角栄の顔写真を使った書籍が多く並んでいる状態でまだまだこれから増加しそうな勢いです。そんな中、戦後最大の疑獄事件といわれるロッキード事件の新資料を読み解くこちらが注目を集めています。事件から40年が経過し、新たな真実が見えてくることはあるのでしょうか?
『ゴジラとエヴァンゲリオン』読者が今月読んでいる本第1位となったのがこちら。人類はこれまでも戦争とともに歩んで来ており、平和に生きるためにも戦争の知識を持たねばならない。と著者は宣言しています。確かに戦後日本には、戦争から目を背けるという風潮もありました。戦争を肯定することと、目を背けることは異なり、知っておくべき「戦争」をこの本は読者に語りかけています。今後さらに話題になりそうな銘柄です。
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新書ということもあって、新書のあわせ買い率が高く、中でも戦争関連のテーマの本が目立つのが特徴でした。歴代のゴジラが背負ってきた核・戦争といったテーマがこの「シン・ゴジラ」を通じて若い世代に伝えられ、関連作品によって深く読み解かれていくのかもしれません。
エヴァからゴジラへ、ゴジラからエヴァへ、世代とファンが混じり合って行くのを見るのもこれからの楽しみです。