あなたには“きょうだい”がいますか?みんなきちんと働いて自立していますか?
昨年夏、ニュース週刊誌「AERA」の特集「きょうだいはリスクか資産か」は大きな反響を呼んだ。その後のアンケートでも、将来を不安視する声が多数集まったという。あなたには思い当る身内はいるだろうか。30歳過ぎてもニートの弟、親と同居する未婚の姉、シングルマザーで非正規社員の妹、親の脛をかじるだけで生きている兄。
今や日本は男性の3割、女性の2割が生涯結婚せず、老年を迎える。そのとき身内はきょうだいだけになる。雇用状態も不安定だ。年金や健康保険、親の介護が終わったら今度はきょうだいの介護が待っているかもしれない。
きちんと収入があり、税金や年金の支払いも滞らず、周囲から「普通の人」に見られているあなたのところに、ある日、縁を切りたいと思っていたきょうだいから「助けてくれ」と連絡が入ったら、果たしてどうしたらいいのか。
本書は、いままで見ないようにしていた家族の闇を浮き彫りにしていく。親がいるうちは、なんとなく先送りにしていた深刻な現実。家族の中だけで囲い込んでいた問題が、一気に「あなた」に降りかかるとしたら…。きょうだいの将来に不安がある人にとって必読の書である。
“きょうだい”とは不思議なものだと思う。親子関係ほどの親密性はない。かと言って、仲のいい友達のように付き合うわけでもない。身内として大事に思うけれど、全生涯の面倒を見なくてはならないと言われたら「それはちょっと…」と尻込みするだろう。かつてなら「家族」がセーフティーネットの最善策であったが、成長して独立したきょうだいは、果たして家族と言えるのか。
いざという時に支え合えるきょうだい関係が一番望ましい。しかし所得や境遇に埋めがたいほどの格差が生じている場合、その存在自体が「リスク」となってしまうのだ。もちろん、そう思われる方は耐え難いだろう。きょうだいを頼るしかないことに開き直れる人間はそういない。だが、現状ではそのリスクに苦しんでいる人は多いという。
本書ではさまざまなケースを想定し、どのような問題が存在しているかを説明していく。いくつか紹介しよう。
50代の独身の姉を持つ妹。自分は仕事を持ち、子どもも育てているが、姉は親と同居しほとんど無職。80代の父親は大手企業に勤めていたため、蓄えや年金も十分なため、娘一人を養う余裕がある。家事はもっぱら70代の母親が行う。もし、両親が亡くなってしまったら、水道代の支払いもしたことない姉は、結局自分を頼ってくるのだろうか、という漠然とした不安を持っている。
まったく逆のケースもある。
40代で認知症の母を介護する妹。親から反対された相手と駆け落ちして結婚した姉がいる。当然、実家に立ち寄ることはほとんどない。早くに父を亡くし、家長として家を切り盛りし婚期を逃した妹は、認知症の母を観るため、仕事を辞め困窮している。だが、姉には絶対に頼りたくないという。
他にもフルタイムで働く弟が認知症の親と同居しているため、収入の面で介護保険の制約があり、家事支援サービスが受けられず、女のきょうだいが無理して面倒を見ている場合や、独身で非正規社員の弟に仕送りを続ける兄、認知症の母を「長男だから」と引き受け、そのためにうつ病にかかった夫を持つ女性など、身につまされる事柄ばかりだ。
それを解決する手立てはあるのか。本書の読みどころはそこにある。公的援助を含め、成年後見人制度の仕組み、親が生存中に家族内で話し合いすることや、第三者を介入させて問題を顕在化させる方法、お金や資産の分与とともに、法律上の役割分担まで解説していく。場合によっては伯父叔母の面倒、あるいは甥姪にまで類が及ぶことを知って驚いた。
きょうだいはほぼ同世代である。つまりその世代が孕む貧困や生活支援の問題にリンクしている。時代か抱える問題が、身内のなかにあるということを改めて考えさせられた。
実際「ちょっと困ったきょうだい」を持つ人は少なくないだろう。私は3人きょうだいの長女で、妹も弟も結婚し自立しているため、このリスクを負う可能性は少ない。夫も一人っ子だから、すべては自分ひとりで決めれば済む。ある意味、気が楽である。
だが、それもいつ崩れるかわからない、という漠然とした不安があるのも事実だ。「きょうだいというリスク」は新たな社会問題として急浮上するだろう。少子化問題にしても、夫婦別姓にしても、待機児童問題にしても、すべては硬直化した「家族」という意識に由来しているのではないか。
この問題は一部の家族だけに起こっていることではない、と著者ふたりは繰り返す。解決策を見つけるのは早いに越したことはない。少しでも不安を持つ人は、参考にしてほしい。
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家族の中で必死になって隠してきた「問題のある子」。しかし親が年を取り、きょうだいでは手におえない場合、どう対処したらいいのか。本書は究極の「きょうだいリスク」を描く一冊である。吉村博光のレビューはこちら。