失敗の本質ーエネルギー版『日本軍はなぜ満洲大油田を発見できなかったのか』

2016年2月15日 印刷向け表示
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日本軍はなぜ満洲大油田を発見できなかったのか (文春新書)

作者:岩瀬 昇
出版社:文藝春秋
発売日:2016-01-20
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国際政治経済のゲームのルールが変わりつつある。シェール革命により自国でエネルギーをまかなえるようになったアメリカは、中東の石油に依存する必要がなくなり、不安定化する中東情勢に介入しなくなった。

かつての世界の警察官が興味を失い、ますます混迷を極める現在の中東。一方で、資源の乏しい日本はそんな不安定な地域にエネルギーの大部分を依存しつづけている。アメリカによる中東地域の安定が保障されない今、日本は国家として戦略的にこのエネルギー問題に対処すべきである。

この絶妙なタイミングで、過去の日本のエネルギー問題を振り返る本書が発刊された。今や「エネルギー界の池上彰」と称されるエネルギー専門家によるエネルギー版 失敗の本質論である。太平洋戦争時、なぜ日本は石油を求めて戦争へと突入したのか。過去の失敗から学ぶべきことは多い。

太平洋戦争前後のエネルギー関連資料を読み漁った著者はこう語る。

太平洋戦争に突入する前の我が日本には、国家全体としての骨太のエネルギー政策は存在しなかった。これは驚きだった。

エネルギーリテラシーが低かった日本は、腰を据えてエネルギー問題に取り組まず、場当たり的な対応の末に太平洋戦争へと突入してしまった、と著者は指摘する。政府・軍による場当たり主義的な対応によって推し進められた悲劇の数々、その一つが満州での失敗であった。

中国東北部、かつての満洲に大慶油田という油田がある。日本の九州ほどの巨大な面積に広がり、これまでの中国経済の成長を支えてきた世界有数の巨大油田である。このほとんどの日本人が知らない油田こそ、第二次世界大戦中に日本軍が喉から手が出るほど渇望したものの、遂に発見できなかった油田である。

歴史に「もしも」は無いのは無論だが、もしも日本統治下の満州でこの大油田が発見され、日本が十分なエネルギー源を得ていれば、アメリカへの開戦という無謀な戦争をしかける必要はなかったのかもしれない。

「満洲で日本が油田を発見できなかったのは不運だった」とこれまで片付けられてきたこの問題に、著者は新たな視点から失敗の本質をあぶりだす。資源開発の実務経験ある著者が注目したのは、当時満洲での油田探査で使用されていた機器や作業内容だ。過去の資料から読み解けるのは、時代遅れの機材や中途半端な作業など、時の最先端とはほどとおいずさんな探査活動の内容だった。

民間企業は当時から欧米の最新鋭機器や最先端技術を取り入れて資源開発を推進していた一方、日本軍は、欧米で一般に使われていた機材・技術の活用を拒み、精神論で油田を発見しようとしていた。十分な機材・技術なしには、いくら優秀な技術者でも油田を見つけることはできない。エネルギー開発の基礎中の基礎をも把握していなかった日本政府・軍による明らかな失策である。

あまりにも情けない失策に開いた口が塞がらないが、その他にも本書では、石油実務を知らない素人によるソ連との権益交渉、荒唐無稽なエネルギー需給分析に基づいて判断された開戦の意思決定、松の切り株を原料として戦闘機を飛ばそうとする日本軍の計画など、いかに当時の日本の中枢がエネルギー音痴であったかがこれでもかと紹介されている。

当時の政府関係者・軍・民間人たちは必死に日本の石油不足に取り組んだのだろうが、エネルギーリテラシーが欠けていたために、ついに日本を焦土へと化してしまった。この歴史から私たちは何を教訓とすべきなのだろうか。同じ過ちを繰り返さないためにも日本はエネルギーリテラシーを高める必要がある、と著者は鼻息を荒くし本書を締めくくる。

混沌とする現在の中東情勢に対し、日本はエネルギー問題とどう向き合っていくのか。本書は今後日本が生き残る上での必読の書といえよう。

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