週刊文春の活躍により、2016年は年初から様々な衝撃のニュースが飛び交う波乱の幕開けとなりました。そんな1月の最後に彗星のように(我々も発売前日まで知りませんでしたから)あらわれて書店店頭を大いに賑わしたのが『あの日』。STAP細胞事件から1年以上を経て、小保方さんが沈黙を破ったという衝撃の手記です。
ある程度の話題にはなるだろうとは予想されていましたが、想像を上回る売上ペースに完売店が続出。2/1時点では80%以上の書店で完売し、在庫の全くない状態になっています(オープンネットワークWIN調べ)。続々重版も決まっており、あの名著『捏造の科学者』にも迫る勢いに!さらに『あの日』発売以降『捏造の科学者』の売上も上向いているということもわかりました。
さて、それではこの話題の書を買った人がどんな方たちなのかをまず見ていきましょう。
赤・青の棒グラフで示したのが『あの日』の年齢別の読者構成比。特徴を目立たせるために線グラフで『捏造の科学者』の構成比と比較してみました。若年層、年輩の女性について『あの日』の強さが出ました。ニュースや日中のワイドショーの視聴者の中心と見られる層が発売と同時に動いたのが良くわかります。
続いて、『あの日』読者の購入履歴ベスト10を見てみましょう。
RANK | 書名 | 著者名 | 出版社 |
---|---|---|---|
1 | 『火花』 | 又吉 直樹 | 文藝春秋 |
2 | 『絶歌』 | 元少年A | 太田出版 |
3 | 『捏造の科学者』 | 須田 桃子 | 文藝春秋 |
4 | 『文藝春秋』 | 文藝春秋 | |
5 | 『家族という病』 | 下重 暁子 | 幻冬舎 |
6 | 『流』 | 東山 彰良 | 講談社 |
7 | 『週刊文春』 | 文藝春秋 | |
8 | 『大放言』 | 百田 尚樹 | 新潮社 |
9 | 『103歳になってわかったこと』 | 篠田 桃紅 | 幻冬舎 |
9 | 『職業としての小説家』 | 村上 春樹 | スイッチ・パブリッシング |
もちろん『捏造の科学者』は上位にランクイン。
他はサイエンスに興味がある、というよりはニュースやワイドショーでの取り上げが多かったベストセラーが並びました。これだとあまりにベストセラー一覧表に見えるので、この中でも『あの日』『捏造の科学者』を両方買った人に限定してみたのがこちら。
RANK | 書名 | 著者名 | 出版社 |
---|---|---|---|
1 | 『家族という病』 | 下重 暁子 | 幻冬舎 |
2 | 『下流老人』 | 藤田 孝典 | 朝日新聞出版 |
2 | 『日本国最後の帰還兵深谷義治とその家族』 | 深谷 義治 | 集英社 |
2 | 『STAP細胞に群がった悪いヤツら』 | 小畑 峰太郎 | 新潮社 |
5 | 『京都ぎらい』 | 井上 章一 | 朝日新聞出版 |
5 | 『石の虚塔』 | 上原 善広 | 新潮社 |
ちょっとそれらしくなりました。
さて、STAP細胞関連書籍読者の購入リストから注目本をいくつか紹介してみましょう。
悲しいことに乳幼児の虐待事件は後をたちませんが、今回の小説はその裁判と補充裁判員を舞台と主人公にして幼児虐待の心理を描き出しています。フィクションではあるものの、この母親たちの心情はどんなノンフィクションにも負けないリアルさ。最終的に裁かれたのは読者自身だったのでは、と思うほど心に重いものを残す小説でした。角田光代の最高傑作と名高い1冊。
『石油の「埋蔵量」は誰が決めるのか?』の著者が描く、昭和初期の石油政策。高校の社会の授業中に先生が「もし、アラブにアブラがなかったら世界はどうなっていたと思う?」という問いかけをしたのが今の今まで心に残っていますが、ここで描かれているのもそんなif。戦前~戦中の石油技術者の手記から読み解いた真実が戦後71年目に明らかにされています。
併読本に医学、サイエンスの本が多かった中で、上位に入っていたのがこちら。良く聞く割には得体がしれない「免疫」。しかしこの研究の進化はめざましく、各種新事実発見がパラダイムシフトを起こして、難病治療ジャンルへも大きな影響を及ぼしているのだそうです。あわせて『現代免疫物語』『新・現代免疫物語』もどうぞ。
『孤独のグルメ』が大ブレイク中の著者初の自伝的エッセイ。地元である東京三多摩地区を散歩しながら少年時代を振り返ります。三多摩地区で子ども時代を過ごした方には、より懐かしい話しでしょう。町歩きのお供にもオススメ。
欧州航路の歴史を描いたこちら。遣欧使節や船員、軍人、実業家、文学者、美術家たちの欧州航路の紀行をたどっていくと近代日本の歩みを解き明かすという本。列強による分断を繰り返した海の世界地図は、船旅ブームが盛り上がる今どのように読まれていくのでしょうか?
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今回抽出した購買履歴はノンフィクションにしては小説が多かった印象があります。STAP細胞を巡る一連のストーリーはノンフィクション好き以上に小説好きに支持されているのかもしれません。まだまだ毎日メディアへの露出が続いており、今後は文中で描かれた人々からの反論も出てくるかもしれません。目が離せない1冊です。