『救命センター』シリーズは、スタートからもう何年になるのだろうと、書庫から浜辺先生のデビュー作『こちら救命センター』を引っ張り出してみた。単行本の発行が1990年だから25年も経つのか。都立墨東病院に救命救急センターができ、先生が赴任したのが85年。救命救急医歴はなんと30年の大ベテランだ。今では立派な部長先生となっている。
このシリーズも本書で5巻目。今となっては救命救急にかかわる医療ノンフィクションの草分け的な存在である。救命センターとはどんなところなのか、30年前はあまり知られていなかったが、今ではドラマやマンガでお馴染みの場所となった。
救命救急に運び込まれる患者の多くは、一瞬前は普通に暮らしていた。事故や梗塞、なんらかのショックなど、心肺停止や障害が突然起こり担ぎ込まれてくる。前後の状況がわからなくともとっさの判断が必要となる。いま命の瀬戸際にいる人をこの世に留まらせるのが仕事なのだ。それが使命であると言っていい。
患者の家族にしても混乱し泣き叫ぶことだってあるだろう。反対に、一命をとりとめても引き取ることを拒まれることだってある。このシリーズでは「命を救う」という様々な場面を紹介してきた。
もともと浜辺先生は辛口だ。今までも患者を怒鳴りつけたこともあるし、容態に対する判断もシビアである。
だが本書では、現在の救急医療現場の深刻な事実をも突きつけられる。救急車の要請件数の激増、事故による若年者の救命より高齢者の傷病者が多くなったこと、病院のたらいまわし問題や自殺者への延命措置など。大きな声では言えないが「その患者は後回しだろう」と読んでいて思うことも。
ある政治家の「死にたい時に死なせてもらわないと困る」という発言は、実は誰もが思っていることなのではないだろうか。超高齢社会のなかで、救命センターはどのように命と向き合えばよいのか。浜辺先生の苦悩は続く。
【「青春と読書」(集英社)2月号より】
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全てはここから始まった。25年前には想像もつかなかった現実に驚かされる。