読み始めると小学校の時、夢中になったドリトル先生を思い出し、時間を忘れてしまった。図鑑を見ながら憧れていた動物園の飼育員。この本の中には私の幼いころの夢がぎっしり詰まっている。
最近、結婚して子供が生まれ久しぶりに動物園に行ったという友人は、昔とずいぶん変わっていて驚いた、と話してくれた。
狭い檻の中に閉じ込められていたライオンや、長い鎖をつけられて杭に繋がれていたゾウなどを記憶している年配者だと、その驚きは一層のものだろう。なにしろ人と動物とを隔てているのは深い溝だけで、目の前でパンダもキリンも見られるのだ。時には糞や尿をかけられたり、唾を吐きかけられたりするので、注意書きは欠かせない。
本書は動物福祉の観点から、21世紀に入ったころから導入され始めた環境エンリッチメントといわれる“飼育動物の幸福な暮らし”を追い求めた4か所の動物園と飼育員たちの試みを描いていく。
取り上げたのは埼玉県こども動物自然公園「ペンギンヒルズ」、日立市かみね動物園「チンパジーの森」、秋吉台自然動物公園サファリランドの「アカハゲコウのフリーフライト」、京都市動物園「キリンのお引越し」。
潤沢に資金があるわけではないし、人手だって足りていない。でもそんな中でさえ、担当する動物が幸せに暮らせ、見に来たお客さんが楽しめるようにと飼育員の努力と工夫が積み上げられていく。
どの動物も、最初は馴染めずおどおどしているのが、徐々に環境に適応し、ヒトを信頼し群れを作り繁殖していく。そのわくわくする過程がたまらない。
動物園という存在自体についての考察も、本書の重要な部分である。未来に向かって、ヒトと動物はどう関わっていくべきか、真剣に考えるための手掛かりになるかもしれない。
【写真は著者の片野ゆかさんが撮影したものをお借りしました。】
『青春と読書 10月号』(集英社)より