観光名所などで、記念撮影用に設置されている顔ハメ看板。誰しも一度は写真を撮って、後から自己嫌悪に陥った経験を持っているだろう。だがそれくらいでヘコんでいるようでは、まだまだアマい。
本書は、日本全国津々浦々の、顔ハメ看板にハマりまくった男の活動記録である。10年前から活動を始め、ハマった看板の総数は約2000枚。まさに穴があったらハマりたい男の、ハメ撮り画像が大量流出である。
顔ハメ看板ニストを名乗るくらいだから、さすがにこだわるポイントも違う。どのような看板が、ハマりのよさを引き出すのかという観点から話が始まる。性別を越え、時代を越え、さらには生物学的分類の壁もやすやすと乗り越えたからこそ分かるポイントがあるのだ。
たとえば女性モノの看板の場合、小首をかしげているものが多い。ときにしなやかに、ときにたおやかに。その際に、看板裏側での中腰スタイルが必死なことは言うまでもない。だが大腿四頭筋の頑張りに甘んじることなく、首に小粋な角度をつけてみると、男性がハマったとき特有の「気持ち悪さ」が完成するという。
そしてなんといっても、この表情が反則級と言えるだろう。軽やかな背景とアンニュイな表情による計算し尽くされたコントラスト。ちなみに顔が主張するタイプの人は一体感が出ないというから、TIPSとしても非常にタメになる。
注目すべきは、顔ハメ看板を実際に作っている方との対談なども収録されていることである。作り手と使い手のディープなコミュニケーション。ここで話題になっているのが、看板の反リについて。反っていると、ハマることへの難易度が高くなってしまうのだという。
さらに一口に顔ハメ看板といっても、様々な種類があることの説明が延々と続く。部分ハメ、リバーシブル、オプション付き、…。予想もつかない看板もたまにあるそうだが、理由を追求していくとたいていは「なんとなく」というオチがつくというから言葉もない。
そして現場に行った人間にしか分からないのが、看板の裏側事情というもの。普段スポットライトの当たることがない看板の裏側には、場末のスナックのような人間模様が繰り広げられているのだ。
最終章ではなぜか、上司と二人で四国の看板巡りに行ったりもするから、どこまでも自由な一冊だ。これで著者も有給休暇を取るとき、大手を振って申請欄に「顔ハメ」と書くことができるだろう。
看板との出会いは、まさに一期一会。あとから画像処理をしたのでは絶対に再現できないであろう絶妙な違和感が、B級の味わいを生み出している。多くの人にとって「とりあえず、やっとくか」で済ませがちな顔ハメ看板。だが「とりあえず」の奥は、実に深いのだ。
<画像提供:塩谷 朋之>