直木賞・芥川賞の話題で持ちきり。ある本が驚異的なスピードで売れていく様を「本が溶けるようになくなっていく」と表すことがありますが、今回の『火花』の売れ方は「不況」と言われ続け、忘れられていたあの盛り上がりを再び思い出させるものになっています。様々な意見はあるでしょうが、この本は出版業界に希望を与えてくれました。
さて、本に関する賞は数多くありますが、ビジネス書ジャンルにおいて年々認知度と影響力をあげてきているのが「ビジネス書大賞」です。毎年4月に発表され、ビジネス書売場を盛り上げる賞となっています。今年は『ゼロ・トゥ・ワン』が受賞、その後好調な売り上げを見せています。この受賞作はどんな動きを見せたのか?『ゼロ・トゥ・ワン』の読者の併読本の中から2016年に授賞する銘柄は見つかるのか!?今月はこの作品を分析してみたいと思います。(※レビューはこちら)
現時点での『ゼロ・トゥ・ワン』の読者は以下のようなクラスタとなっています。
80%程度が男性読者、ピークは40代男性という典型的なビジネス書の読者層に見えますが、授賞発表後は若干女性読者を増やしているようです。起業を目指す人たちへのメッセージということもあり、発売時点は読者の平均年令が低く、時間を追うにつれ年齢層の高めの世代に広がっていったという傾向も見られます。
さて、では読者の併読銘柄を見ていきましょう。『ゼロ・トゥ・ワン』の発売から3ヶ月以内に購入した方がそれ以降に購入した、2015年1月以降に刊行された本でのランキングを作成してみました。
RANK | 銘柄名 | 著訳者名 | 出版社 |
1 | 『HARD THINGS』 | ベン・ホロウィッツ | 日経BP社 |
2 | 『0ベース思考』 | スティーブン・レヴィット | ダイヤモンド社 |
3 | 『速さは全てを解決する』 | 赤羽 雄二 | ダイヤモンド社 |
4 | 『禁断の魔術』 | 東野 圭吾 | 文藝春秋 |
5 | 『低欲望社会』 | 大前 研一 | 小学館 |
6 | 『「ドイツ帝国」が世界を破滅させる』 | エマニュエル・トッド | 文藝春秋 |
7 | 『たった一人の熱狂』 | 見城 徹 | 双葉社 |
8 | 『まるわかりインダストリー4.0』 | 日経BP社 | |
9 | 『ダイヤモンド』 | ダイヤモンド社 | |
10 | 『AIの衝撃』 | 小林 雅一 | 講談社 |
ランキングに入ってきたものは意外に多くありません。併読本リストの中から、注目の銘柄を何冊か紹介していきましょう。
『ゼロ・トゥ・ワン』読者に最も読まれ、読者層も最も似ているのがこちら。シリコンバレーで注目される投資家のベン・ホロウィッツの壮絶なまでの実体験、そしてその困難(ハードシングス)にどう立ち向かっていったかを描いています。いわゆるHow to本とは一線を画しますが、経営を志す者、携わる者には共感出来るところが多いと評判です。
『グローバリズムが世界を滅ぼす』の著者エマニュエル・トッドの最新作。冷戦以降の東側諸国の動き、EUの誕生、ユーロの導入といったヨーロッパの動きでドイツは大きな利益を得ていて、「ドイツ帝国」は拡大の傾向にある。と著者は説きます。最近、ギリシャ問題でメルケル首相の姿を見る機会が増えていますが、その見え方すら変わってきそうな話題作。
「会社の数字を読める本」的な本は定番品として書店に並んでいますが、こちらはそういった「会社の数字」をつくり出すまでに至る歴史解説書になります。会計や簿記については今さら勉強するのも…という方にこそオススメしたい1冊。当たり前のように世界中どこもしっかりした会計が行われていると思いがちですが、誕生と隆盛を見ていくと違った感想を持つことになりそうです。(※レビューはこちら)
ここ数年、インバウンド需要についての本の出版が激増しています。いま、各企業が最も注目をしている「消費者」は外国人でしょう。2014年の訪日客数、1,300万人という数字を聞いて私などはただただ「おぉ」と驚いたものですが、著者は「驚くほど少ない」と言います。本当の観光立国のために何をどうすべきなのか、インバウンドビジネスを検討する方には必読の提言です。
ピケティが売れたのにも驚かされましたが、この本が順調に売れていっているのにも驚かされています。すでにレビューも書かれていますが、数学に興味を持つ方であればぜひ手に取っていただきたい1冊。私などは名前くらいしか知らない「フェルマー予想」などの数々の数学の謎、この点在する謎に架け橋を見つけようとした数学者のノンフィクションです。それでもやはり数学はハードルが高いという方には、世界的に話題となっている小説『国を救った数学少女』へのチャレンジもオススメ。
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ビジネス書大賞は来年4月に発表予定ですが、果たして『ゼロ・トゥ・ワン』読者の併読本上位から選ばれる事になるでしょうか?これからも注目してみたいと思います。