『つくし世代』それな!

2015年4月6日 印刷向け表示
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つくし世代 「新しい若者」の価値観を読む (光文社新書)

作者:藤本 耕平
出版社:光文社
発売日:2015-03-17
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昨年からライブやフェスへよく行くようになり、そこで知り合った一回りくらい下の世代(20代前半)の人たちと接する機会が増えている。いまどきの若者たちは……などとおじさんじみたことを言いはじめる気はないけれど、彼らは自分たちの世代とはまったく違った価値観を持っているなと会話をしていて感じることが多々あった。

そんな中でみつけた『つくし世代』という本には、若者たちの行動や消費の傾向など、若者たちの「今」が載っていて、彼らと会話をしていたときに漠然と感じていたことが、言葉になって表現されていたので、とても楽しく読むことができた。

彼らと会話をしていて気になるのは「それな!」という言葉だ。日常会話やSNSでやりとりをするときに、頻繁に使われている共感を示す言葉だが、同世代や上の世代との会話では、決して耳にすることのない言葉だろう。

いまの若者は人と共感するということに重きを置いているそうだ。しかしある出来事に対して、たくさんの言葉を使って共感を示そうとすると、微妙な「自分っぽさ」を大事にする彼らは、「ちょっと違う」と感じてしまうことが多い。そこで「それな!」という短い言葉で、さりげない共感を示す。自分を主張することなく、相手に共感を示す「それな!」という言葉は、若者のコミュニケーション独特のものだ。

「ゆとり世代」や「さとり世代」などとも揶揄され、欲がない、消費しないと言われている彼らだが、行動や消費傾向をひもといていくと、そうした言葉のイメージに当てはまらない面が見えてくる。彼らは仲間とのつながりを大事にし、「みんなで楽しみたい、みんなで喜びたい」、「自分一人ではなく、誰かのために」ということに関しては、他の世代にはない貪欲さを持っている。そのためなら、時間もお金も惜しまないのだ。

道徳観や社会性に基づくのではなく、「そのほうが自分もハッピーだから」「喜んでもらえると嬉しいから」というシンプルな動機に基づいて行動をする。仲間たちの喜びのために奉仕し、尽くそうとすることが、日常的な行動原理や消費原理になっているのだ。そのようなことから、彼らのことをこの本では「つくし世代」と名づけている。

「つくし世代」を構成するのは次の5つのマインドである

チョイスする価値観
つながり願望
ケチ美学
ノット・ハングリー
せつな主義

そのうちの3つを紹介しよう。

まずは、「チョイスする価値観」。個性を尊重する教育を受けてきた彼らは、「自分っぽさ」を大事にし、既成の価値観や枠組み、世間の常識にとらわれず、自分が良いと思うものをチョイスし、ミックスし、アレンジしていくことに長けている。ユニクロの商品をユザワヤで買ってきたものを使って自分でアレンジしたり、苦味を感じなくなるからという理由で、ビールに氷を入れて飲んだりと、常識にとらわれず、自分のものさしで、自分に合うものを選ぶという価値観を持っている。

次に「つながり願望」。たこパ(たこ焼きパーティ)などの宅飲みが若い女子の間で流行っているそうだ。ただ友達と家で飲むのではなく、それをイベントとして楽しんでいるらしい。友達と共通のイベントに参加しているということに価値を見出している。さらにカラーランやエレクトリックランと言ったイベントも人気だ。これらに共通されるのは非日常感、イベント感、仲間たちとのつながり感に加えて「フォトジェニック」であることだ。フェイスブックなどに友達と一緒に参加しているところをアピールしたいという願望も強いそうだ。

最後に「ノット・ハングリー」。この世代の人達は努力が自分のためになるとは限らないし、真面目に頑張れば頑張るほど馬鹿を見ることもあるという思いが強い。それよりは「ほどほどに頑張って、ほどほどの生活ができればいい」という感覚を持っている。またSNSなどで、出会いの機会が増えたため、一期一会という感覚が薄れていて、実際に会えない人でも、その気になれば出会えそうだからという期待感から、恋愛に対しても飢餓感がなくなっているという。

このように、この本では「つくし世代」という、「ゆとり世代」や「さとり世代」とは違った、新しい世代の枠組みを提示している。若者の傾向を知ることは、ビジネスをする上でも必要だろう。若者が消費をしなくなり、様々な分野でブランドの高齢化が進んでいる。若い世代を惹きつけるにはどうしたらいいのか?また若い世代を動かすにはどうしたらいいのか?が、この本を読むことでわかるかもしれない。

女子力男子 ~女子力を身につけた男子が新しい市場を創り出す

作者:原田 曜平
出版社:宝島社
発売日:2014-12-12
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決定版-HONZが選んだノンフィクション (単行本)
作者:成毛 眞
出版社:中央公論新社
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