『蒙古襲来』by 出口 治明

2015年3月1日 印刷向け表示
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蒙古襲来

作者:服部 英雄
出版社:山川出版社
発売日:2014-12
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力作である。鎌倉幕府は蒙古襲来に全精力を使い果たしてやがて滅んだが、蒙古襲来の実相については、あまり語られることは無く、漠然と神風(台風)が吹いて蒙古の船が沈んだ(ほぼ全滅した)という常識が長い間罷り通ってきた。本書は、日本、朝鮮、中国の史料を丁寧に渉猟して、蒙古襲来の実像をできる限り正確に(合理的に)復原しようとする意欲的な試みである。そして、著者は「蒙古合戦は神風による戦いではない」と結論付けるのである。

なぜ、クビライは、日本に兵を向けたのか。それは、火薬の材料となる硫黄を大元ウルスの敵国である南宋にのみ輸出していたから、というのが著者の見立てである。そして日宋貿易による巨利と、その拠点であったわが国におけるチャイナタウン(唐房)の存在が実証される。

次いで、1274年10月の文永の役(甲戌東征)。高麗から蒙古軍が押し寄せる。嵐が吹いて翌朝に帰ったという記述は、どの史料にも見当たらない。また900艘の大軍は実は112艘だったとの論証がなされる。蒙古軍は、1週間ほど戦い、寒冷前線の通過を契機として、帰国したとの整理がなされる。そして「蒙古襲来絵詞」が、後世の加筆(特に2通もある奥書は江戸時代?)や、不自然な描写(水主や漕法等)が多々あるものの、全体としては一次資料として十分信頼が置けることが説明される。

続いて、1281年の弘安の役(辛巳再征)。蒙古軍は東路軍(高麗軍)と江南軍の2手に分かれて攻め寄せる。どちらも150艘程度だったらしい。通説の何千艘は明らかに多すぎる、と著者は指摘する。東路軍は5月に志賀島を占領。大宰府を狙う構えを見せた。やがて応援の江南軍が7月に合流。鷹島を本拠とするが、台風で江南軍の老朽船十数隻が沈み、蒙古軍は再び立ち去ることになったのである。なお、日本と大元ウルスは準交戦状態を続けたものの、互いの交易は盛行した。「戦争は瞬間の現象であり、基調には平和・交易があった」のである。本書には、対島の両属性や、石築地の分析など他にも読ませる論考が多い。ただ「なぜ日本が外交官・大使を殺すという国際ルールを違反・暴挙をしたのか、という思いはある」。

蒙古襲来では神風(神の戦い)を喧伝した「八幡愚童訓」が資料として重用されてきたが、著者は(石清水)八幡信仰の宣伝にすぎず実録にあらず、と一刀両断する。既に百年前、中山平次郎らがそう指摘していたのではないかと(先学を評価する著者の姿勢はとてもフェアだ)。著者は、この神風思想が神風特攻隊の悲劇を生み出したのではないかと、歴史の虚構性を批判する。正論であろう。ここまで、文系、理系のあらゆる方法論を駆使して説得的に論述された以上、今度は通説(学界)が答える番であろう。斬新な切り口の論考(新説)を無視し続けるだけでは、それこそ、学界の名が泣くのではないか。
 

出口 治明
ライフネット生命保険 CEO兼代表取締役会長。詳しくはこちら

*なお、出口会長の書評には古典や小説なども含まれる場合があります。稀代の読書家がお読みになってる本を知るだけでも価値があると判断しました。

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作者:成毛 眞
出版社:中央公論新社
発売日:2021-07-07
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