HONZ代表・成毛眞による技術探訪記『メガ! 巨大技術の現場へ、ゴー』の刊行記念として、この本のもととなった連載「成毛眞の技術探検」の担当編集者だった東洋経済オンライン山田俊浩編集長と成毛眞とのトークイベントが去る2月26日に開催されました。冷たい雨がしとしと降るあいにくの天候でしたが、多くの方にご参加いただき、会場は『メガ!』を支える技術に対する情熱で熱気ムンムンになりました。
発売されたばかりの本書は、書店の新刊台以外にも、科学書棚や美術書コーナーに展開されているケースもあるとか。成毛眞は、とある本屋で山口晃画伯の本の隣に鎮座する『メガ!』を発見して感激しきりだったそうな。巻末の「桁違いにためになるブックガイド」で紹介されている本と並べている書店もあるようなので、書店のどの棚に置かれているかを探して、手にとってみてください。パラパラと写真を眺めるだけでもワクワクしてくるはずです。
メガの取材も楽じゃない!?
「こういう時だからこそ、デッカいものを見よう!」とスタートした人気連載も、開始当初は苦労が絶えなかったそうです。何より取材先へのアポ取りが大変だったようで、そもそも外部の人間が入ってくることを想定していない、極秘技術の塊のようなエリアばかりなのだから無理もありません。それだけに、本書に収められた本当に貴重な写真は、細かく見るたびに新たな発見があります。成毛眞が「自分だけでは見学できない場所でも取材なら入れるだろう」と思いついた企画を見事カタチにした山田編集長の手腕はさすがという他ありません。
編集長といえば、このイベントのレポート担当であるHONZメルマガ編集長・栗下直也が、なぜかイベント開始30分が経過しても会場に姿を表しません。どこかで酔いつぶれているに決っているのですが、誰がレポートを書くというのでしょうか。イベント開始5分前に栗下から「村上レポート書いとけよ、今度一杯おごるから」というメッセージを受け取った私は、「了解です。“すきやばし次郎”を予約しときます」と返信したのですが、それ以降栗下から連絡はありません。同じ編集長でもこんなに違うものなのかと落胆していた所、山田編集長も初回の取材場所である大橋ジャンクションに遅刻したそうなので、編集長とは案外そういうものなのかもしれません。
さて、取材の裏話から始まった山田編集長と成毛眞のクロストークは、取材現場のその後へと移っていきます。実はこのイベントには、『メガ!』の取材先の皆様にもご参加いただいており、現場を支える皆様から直接取材後の変化についてお話いただきました。
(以下、企業・団体名は東洋経済オンライン記事へのリンクになっています。)
進化し続けるメガの現場・最新レポート
トップバッターは、連載No.1のPVを記録した東海旅客鉄道株式会社(JR東海)の塩川慎也さん。随分先のことと思われた東海道新幹線のダイヤ改正もいよいよ来月に迫ってきました。最高時速が15km/時アップすると言われてもピンときませんでしたが、「21時台の新大阪行き新幹線を3本から4本へ増やすことで、座席を1,300席程度拡充できる」と聞くと、その凄さに驚きます。これで、出張のサラリーマンも安心して終電ギリギリまで飲み続けることができることでしょう。周辺飲食店への経済効果も期待できる、かもしれません。
成毛眞が一番ショックを受けた現場だったという株式会社オハラの南川弘行さん。表に出ることの少ない素材メーカーであるオハラですが、この取材以降NHKや読売新聞など大手メディアからの取材が殺到したそうで、対応に大慌てだったとか。なんと3月5日には日本テレビのニュースZEROにもご本人が登場するとのこと(予定)、是非チェックして下さい。ちなみに、成毛眞はオハラの“技術に対する思想”にショックを受けたようです。「より早く」、「より軽く」という純化(Purification)の追求が得意な従来の日本企業とは異なる発想を、オハラの技術者から感じたからだそうなのですが、その真髄の一部は本書でも紹介されています。
HONZで「併せて読まれたこの一冊」を連載している古幡瑞穂が所属し、1日で200万冊の本をさばく大手取次の日本出版株式会社の大熊祐太さん。取材に伺ったのは王子流通センター。この王子という街には印刷や製本までを含めた出版関連企業の集積地となっていて、駅前のスタバも他の街とは違う雰囲気を醸し出しているんだとか。山田編集長は、3Dパズルを解くように、バラバラのサイズの書籍をダンボールに高速で詰めていく職人技に目を奪われてしまったそう。大熊さんによると海外取次会社が見学に来た際も、その職人芸に口あんぐり状態だったみたいです。
HONZレビュアーが競うように紹介し合った、東日本大震災の津波に飲み込まれた石巻工場の復興を追った『紙つなげ』。その舞台となった日本製紙株式会社の小林隆幸さんは、その現場からのメッセージを紹介下さいました。なんと、この『メガ!』の本文部分も日本製紙の紙でできているのだとか。取材後の日本製紙では、自家発電用ボイラーの燃焼灰を岩手県の国道45号「釜石山田道路」で使用するコンクリート用の混和剤として提供されているそうで、復興に向けた強い思いを感じます。
ユニークな紙の製造で知られる特種東海製紙株式会社の大沼裕之さんは、これまたユニークな軽量新製品「airus エアラス」をご紹介くださいました。ここで成毛眞が「紙の値段は重量できまるんだから、軽い製品をつくったら儲からないでしょ」とツッコミを入れたのですが、大沼さんたちはそれでもお客様が喜ぶより良い製品の追求はやめられないのだと熱弁。こういった技術追求の姿勢が、他社にはない独自の製品を生み出しているのかもしれません。『メガ!』の表紙、カバーと帯はこの特種東海製紙の製品を使用しています。
続いてHONZ読者にはもはや説明不要な独立行政法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)の澤田郁郎さん。『メガ!』の表紙にもなっている世界最大の研究船である「ちきゅう」は、今年で10周年。現在は海外に出てしまっているので見ることはできませんが、JAMSTECでは「ちきゅう」以外にも様々な見学プランが用意されています。10名以上であれば横須賀本部の見学も可能なので、是非ご自身の目でメガの一端に触れてみてください。『メガ!』巻末には他にもオススメ見学場所リストもあるので大人の社会見学の参考にしてください。
大トリを務めるのは大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構(KEK)の岡田小枝子さん。実は、このKEKの取材が後のCERNの取材へと繋がっていったのです。KEKのように最先端の機関で使用する部品は東急ハンズなどで売っているはずもなく、多くの装置はコツコツと手作りされているのだそうです。KEKの加速器にはカラフルな磁石が使われているのですが、深遠な理論によって導かれた最適な色なのかと思いきや、女性研究者の趣味だと聞いてズッコケそうになりました。しかも、紫色が多いのは塗料が安いからだとか。メガの真髄は奥が深い。この4月の科学技術週間には見学ツアーが開催されるのでお見逃しなく。
次回作への期待、そして2次会へ
みなさんが濃ゆいお話を連発され、大いに盛り上がったイベントは少々盛り上がりがすぎたようで、終了時間を大幅にオーバーしてしまいました。締めくくりは、『メガ!』の今後の展望について。『メガ!』より大きな『ギガ!』も面白そうだし、とことん小さな『ナノ!』も見てみたい、緊急事態にしかお目にかかれない『イザ!』なんてのもありだねと、今から楽しみになってくる話題でイベントは終了しました。
イベント終了後、取材先の皆様とHONZメンバーは二次会へと進んだのですがここでも堪らなく面白い話が続出でした。あまり知られていないけど製紙企業は土地持ちで、山林所有面積で見ると日本製紙は日本で第2位(1位は王子製紙)なのだという驚きがあれば、最先端の科学技術を誰にでも分かる言葉に翻訳する広報の大変さ、JAMSTECの次世代有人調査船「しんかい12000」の明るい未来、さらにはここには書けない話など最後まで楽しませて頂きました。
もちろん、このイベントはHONZも特別協力とクレジットされておりましたので、我々もただただお酒を飲んで騒いでいるわけにはいきません。仕事の都合で二次会から駆けつけた麻木久仁子が持ち前の仕切り力で見事に場の雰囲気を引き締め、このイベントのために東京に来たんじゃないかと疑われる仲野徹は「仲野徹とノーベル賞受賞者」という鉄板ネタで笑いを誘い、学生メンバー峰尾健一はテキパキと受付業務をこなし内藤順から「良い受付の顔になってきたよ」と謎の褒め言葉を貰っていました。『メガ!』担当編集でもある足立真穂の周到な仕込みに加え、酔っ払い担当の栗下直也と遠藤陽子が欠席だったことが大盛況の要因でしょうか。
取材先の皆様は、「成毛さんが楽しそうにしていたのが印象的だった」と取材時を振り返っていました。成毛眞も「30年トンネルを掘り続けている人にとっては日常かもしれないが、傍から見ればめちゃくちゃ面白いんだよ!」と力説していたので、本当に楽しかったのでしょう。ただただ圧倒的に大きいモノ、異常に精密なモノ、見た目がとにかくヘンテコなモノ。どんな情報でも手のひらの中で集めることができる今だからこそ、その実物をこの目で見に行くことは想像以上に大事で、貴重なことなのかもしれません。この本には、あなたの知らない、素通りしてきた面白さがギュッと詰まっています。最後になりましたが、取材先の皆様、会場までお越しいただいた皆様本当にありがとうございました。
(写真提供:菅野健児)