12月というと、出版業界にとっては様々な「年間ベスト」が発表され、お店の売場が賑わう時期です。今年は年末に興味深い本が数多く出版され、読みたい本・積ん読本の数と読書に使える時間が反比例しております。
こんな時期なので、私も何かベストっぽい事をしてみたい!ということで、2014年「HONZアクセスランキング」というのを作っていただきました。これをもとに今年注目を集めた本を振り返っていきたいと思います。
RANK | 書評名 | 評者 | 男性 シェア |
平均年令 | 店頭順位 |
1 | 『ヤンキー経済』六本木からも丸の内からも見えない世界 | 成毛 眞 | 75.9% | 43.8 | 2 |
2 | 『エロの「デザインの現場」』R18の想像力 | 内藤 順 | 76.9% | 41.0 | 8 |
3 | 『年収は「住むところ」で決まる』プログラマーが多い街にはヨガ教室が多い | 村上 浩 | 78.4% | 42.2 | 7 |
4 | 『申し訳ない、御社をつぶしたのは私です。』前代未聞のビジネス書! | 成毛 眞 | 78.2% | 46.2 | 1 |
5 | 挑め!世紀の難問『ドーナツを穴だけ残して食べる方法』 | 仲野 徹 | 57.8% | 42.5 | 6 |
6 | 絶対に真似をしてはいけない35の科学実験『Mad Science2』 | 内藤 順 | 78.6% | 41.1 | 9 |
7 | 『真実 新聞が警察に跪いた日』栄光からの転落 | 麻木 久仁子 | 79.2% | 54.3 | 4 |
8 | 『ぼくは物覚えが悪い』海馬を失った男は永遠に続く30秒を生きた | 内藤 順 | 100% | 53.2 | 10 |
9 | 『謝るなら、いつでもおいで』佐世保小6同級生殺害事件から10年 | 東 えりか | 30.3% | 49.7 | 3 |
10 | 捏造を知るにはこれを読め!『背信の科学者たち』の緊急再版を訴える | 仲野 徹 | 85.9% | 55.8 | 5 |
※アクセス数は公開後30日間における集計、コラム記事をのぞく。男性シェア、平均年齢、店頭順位はWIN+による店頭での集計数字。
ランキングは製作部数や売上数をも超越した大変興味深いものになりました。また、全て書評アップから1ヶ月に限定したデータですので、公開時期による影響はほぼないとのことです。
この上位銘柄について、WIN+データによる読者平均年令、男女比率を抽出してみました。全体では51%を女性が占めるWIN+の読者層ですが、HONZで取り上げられた書籍は7割前後が男性読者というものが多くを占め、特徴をはっきり見せていました。これを男女比(男性シェア)・平均年令をもとに相関図にしてみたのが以下の表です。横軸に男性シェア、縦軸に読者平均年令で1~10位までの銘柄を配置してみました。
女性読者の方が多かった唯一の銘柄は『謝るなら、いつでもおいで』。こちらは、併読している銘柄がほぼ小説だというところも他の銘柄との大きな違いでした。意外だったのが、その次に女性占有率の高かった『ドーナツを穴だけ残して食べる方法』です。学術書にもかかわらず、幅広い年代で売れており、大学生年代の次に購入しているのが50代女性だったという驚きの結果になっています。男性率100%の『ぼくは物覚えが悪い』は発売からの期日が短くデータが少ないのが原因だと思われます。
平均年令に目を移してみます。40代中盤に大きなかたまりがあり、そこから外れた銘柄が点在といった感じです。年齢が高かった2銘柄は『背信の科学者たち』『真実』で、どちらも60代男性をピークに40代~70代までの読者が多い書籍です。
WIN+の読者数でのランキング順位も作成してみました。HONZがウェブサイトだということもありますが、書評注目度と店頭売上は残念ながら相関関係にはありません。多くの人が興味を持った銘柄なら、店頭でも工夫次第でもっともっと手に取っていただける可能性もあるのではないでしょうか。全国の書店員さん、頑張りましょう!!
それでは、上記読者11月以降の購買分析から注目の作品を何作か紹介させていただきます。
この本が発売されて、かつ売れているというのは出版業界的な重大ニュースなのではないかと思っています。社会・ビジネス系読者の併読本としてもちらちらと名前が挙がってきている世界的ベストセラー。「売れているけど、超難解」という会話をすでに何度も聞いていますが、すでに各社から発売が始まっている「ピケティ&21世紀資本の読み方ガイド本」と一緒にお買い求めの方も多いようです。
『エロの「デザイン」の現場』読者の注目が集まっています。やはりアダルト関連本は気になるけど店頭で手に取りづらい、しかもゆっくり立ち読みもしづらいという方が多いのでは。以前のこの欄で『職業としてのAV女優』を紹介させていただき、その過酷さを知ったと書かせていただきましたが、女優1万人に対して男優は70人程度なのだそうです。そして制作本数は月に約4500本!どんなに過酷な労働状況なのか、その数字を聞いただけでも気が遠くなりますが、そういった現状に真面目に迫ったノンフィクションがこちらです。
1998年発売の本ですが、10月下旬から売上が上昇中。最近テレビで増えている“外国人の目を通してニッポン再発見”的な企画をあのシュリーマンがやっていたという話です。トロイア遺跡発掘の6年前に幕末の日本を訪れ(3ヶ月滞在したそうです)、当時の日本の文化や人々の様子を克明に記述しているのです。まさにイマドキの1冊。他の外国人滞在記と比べて読むのも面白いかもしれません。
脳や心について興味を持つ読者が注目をしているのがこちら。私たちの心は、自分の矛盾に気づかないように設計されているのだそうです。そして脳の中の部位(モジュール)は互いに矛盾する情報を処理しながら機能しています。しかも、意識とは無関係に。です。だとしたら、本当の自分って何よ。自分探しの意味なんてあるんでしょうか?そういう疑問に答えが出るかもしれません。
スマホ、ゲーム、甘いもの、危険ドラッグ…世の中には、ついつい時や自分を忘れてしまうものが溢れていますが、それらの蔓延にはテクノロジーと社会の共犯関係が裏に潜んでいる。と著者は訴えます。これを訴える著者がアルコール依存症だったというのも面白い話。自分の中にある依存に気付くためにも一読しておくと良いかもしれません。
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我々はよく「40代女性の売上に火がつくとベストセラーになる」といったことを言っています。もちろんジャンルによって様々な特性はありますが、取次のランキング上位銘柄はほぼこの傾向に寄っていきます。ベストセラー化を担うのが40代女性なのだとしたら、知的欲求に満ちたHONZレビュアーや読者はこれからの多様性ある出版を担っているのかもしれません。その購買履歴を分析することは、本棚見学に似た楽しい時間となりました。この一年に出会った方々や本に改めて感謝しつつ、来年もどうぞよろしくお願いいたします!