社会に出ると「もっと儲けたい」という月並みな思いが、多くの人の心の中心にデンと居座るようになり、私は本当にもったいないと思ってきました。最近、世界的な経済学者の宇沢弘文氏が亡くなり、経済学に幸福という観点を持ち込んだ氏の著作に再びスポットが当たるようになりました。私は勤労学生でしたが、大学4年生の頃、氏の名著『自動車の社会的費用』を読んで「自動車は運転しない」と決心し、社会と自分との関係を見直すためにあえて単位を1コマ残して留年することに決めました。当時は、自動車を運転することが当たり前だったので、それはいわば「当たり前の人生への反旗」でもありました。
でもそれはささやかな抵抗でしかなく、翌年には就職し、そのまま現在に至っています。客観的にみれば、逃げ続けている人生なのでしょう。ただ、こだわり(自分なりの考え)はあります。私は、『自動車の社会的費用』以降も読書体験を受けて、生き方の軌道修正を続けてきました。後ほどご紹介する『ご先祖様はどちら様』にあるように、仮に「学ぶ」ことが「思い出す」ことだとしたら、読書体験を大切にするということはご先祖様に想いを馳せることに似ているのかもしれません。
うどんやそば、ハンバーガーといった食品自販機に馴染みがある方は、意外と少ないのかもしれません。本書は、一杯数百円のうどんを食べるために、高速代とガソリン代を惜しみなく使って行われた取材の記録です。小中学生のころ、私は休みになると父に釣りに連れて行ってもらいました。だから私は、ロードサイトにあったこれらの自販機について少なからず記憶があるのです。本書にある自販機の写真を見ると、とても懐かしい気持ちになり、ジーンとしてしまいます。
昭和59年には25万台あった食品自販機も、コンビニなどにおされ、いまや絶滅寸前とのこと。ただ、これらの自販機が並べてあるドライブインが、まだ全国各地に残っているそうです。東京から近いところでは、埼玉県の北上尾駅から歩いて10分というところにもあるそうです。今度私は是非そこに足を運んで、自販機の温かい天ぷらうどんを味わってきたいと思っています。当時のことを思い浮かべながら。楽しみ~。
蛇足ですが、最近は、浅草寺などのいわゆる「観光地」ではなく、意外なところが外人さんの観光スポットになっているようです。こんな自販機を見せられたら、アメージン!といって腰をぬかしそうな気がするんですが。観光会社の方々、ちょっと立ち寄ってみてはいかがですか?
本書は、ノンフィクション作家の高橋秀実さんが自らの父方と母方のご先祖様を辿った、ルーツ探しの記録です。『からくり民主主義』『弱くても勝てます』など、いつも独自の視点で物事の本質をつく氏のルーツ探しの旅は、それがヤクザや源氏や平氏にまで至ったドラマチックなものだったからではなく、誰にでも当てはまる発見に満ちていたため、現代に生きる私たちにとって有意義な「教養」の本になっていると感じました。「教養」といえば歴史を思い浮かべる人も多いと思いますが、むしろ歴史にウソ臭さを感じる方にお薦めしたい「教養」の本です。
「家系は限りなく膨張するので、私たちは誰しも立派な人の末裔の「素質」を持っているというのである。」(本書より)
それも大きな気づきですが、一番大きな気づきは「過去は改められる」ということです。社会情勢に合わせて、便宜的に家系図のトップに源氏などの血脈がつけられる場合が多くあったようです。私たちが学んでいる「歴史」は、多大な研究を重ねて到達したものですが、そもそも謎解きのようなものなのかもしれません。
私も本書のように、亡き父の古い戸籍をたよりにルーツ探しの旅に出かけたことがあります。日帰りの佐賀旅行でしたが、市役所で多くのことがわかり、親戚にご挨拶をし曾祖父の墓参りをすることができた貴重な一日でした。命のバトンが江戸時代から私までつながってきた記録を手にして、温かい気持ちになった記憶があります。父が話さなかったことは知らないままにしておくべきだったかなと、後から少し反省もしたのですが、本書に「ご先祖様が引き寄せたんだね」という、地元のおばあさんの言葉があり、なんだかホッとさせられました。皆様も、本書を読んでルーツ探しの旅に、出かけてみませんか。
装丁には、卒業写真とおぼしき写真が多数あしらわれていて、書名だけでなんとなく内容のイメージが湧いてくる本です。しかし、間違って欲しくないのは。本書が卒アル写真だけをあつかっているわけではないという点です。卒アル写真であまり笑ってない人の離婚率が高いというのも確かに興味深いですが、それはこの本にある7つの章のうちの一章にしかすぎません。
原著のタイトルは『TheTell』。tellとはポーカー用語で、自身の持ち手を対戦相手に知らせてしまう表情やしぐさのことを表すのだとか。著者は、米デポー大学心理学部の准教授だが、その研究の柱は「言葉以外の手がかりによる将来の予測」なのだそうで、それには、最近正当性を認められるようになった「人相学」の研究もふくまれています。どういう顔立ちの人が人殺しを犯しやすいかとか、どの程度CEOの顔立ちで企業の将来性を予測できるかなど、大変興味深くて新しい研究分野だと感じました。
と言いながら私も同じような研究をしていることを想い出しました。「繋ぎが立っている馬は、重馬場がうまくダート向き」「細長い体躯の馬は、長い距離向き」などなど、私の馬券研究はハズれてばかりなのですが、こういう研究って面白いんだよなぁと不謹慎ながら読んでいてワクワクいたしました。しかも、お金をもらってできるなんて。
「もっと儲けたい」という月並みな思いをその人の「こだわり」にできれば、この社会では、成功が約束されたようなものだと私は考えています。でも、それが上手くできない人もいます。というより、ことによると本当のところ誰しもが、一方に目隠しをして生きている状態なのかもしれません。松浦弥太郎さんの本を読むと、とても爽やかな気持ちになります。その時感じるのは、常識的な明快さではなく、根源的な明快さです。当たり前のものに身をゆだねずに、自分の中から湧いてくる疑問に答え続けているという明快さなのです。
「なぜ、なに、なんだろう」という疑問を、一つ一つていねいに自分で考え続けてきた人生が、そこにあると私は感じます。そして、これまで自分がしてきた一つ一つの選択を思い浮かべ、反省の念を感じるのです。ボウっと顔が赤くなるのを感じ、「恥の多い生涯を送ってきました」(太宰治)とか「思い起こせば、恥ずかしきことの数々」(車寅次郎)という言葉が、思わず口をついて出てしまうのです。
「いい仕事をしたい、社会に貢献したいという、こだわり、わがままを一人ひとりがもっと持つべきだと思います。」(本書より)
あぁ、良い言葉だなぁ。と私は思いました。本書は、2006年より雑誌「暮しの手帖」編集長をつとめる著者が、思考術/想像術/コミュニケーション術など5つの切り口で「ていねいに生きる極意」を伝える本です。絵本的に言えば40代向けの本です。勤続疲労で身体を壊している方は、ぜひどうぞ。あなたの人生を彩る、ほんとうに大切な10人の顔がなんとなく見えてきますよ。
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いずれおとらぬ4冊ですが、とくに『ご先祖様はどちら様』⇒『考え方のコツ』と読んだときに、私の頭の中で化学反応が起きました。食べる順ダイエットというのものあるようですが、本を紹介する者としては「読む順」という切り口も面白そうだと感じました。もちろん、買ってもらうためじゃなくて効果第一主義で。皆さまに読んで良かったと思える読書を、もっとたくさん贈りたいですね。あ、そういえば。本を表紙で見分ける「人相学」という切り口も・・・う~ん、キリがないですね。
夢はダービー馬の馬主。海外事業部勤務後、13年間オンライン書店e-honの業務を担当。現在は本屋さんに仕掛け販売の提案をする「ほんをうえるプロジェクト」に従事。ほんをうえるプロジェクト TEL:03-3266-9582