『ふしぎな国道』著者・佐藤健太郎氏インタビューマニア歴17年のサイエンスライターが語る、あまりにディープな国道♥愛の世界

2014年10月23日 印刷向け表示
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読み始めたら止まらない異次元ワールドとして、早くも評判の高い『ふしぎな国道』。それにしても『炭素文明論』などで知られるサイエンスライター佐藤健太郎氏は、なぜディープな「国道♥愛」をカミングアウトすることになったのか?注目の著者インタビュー。 ※レビューはこちら

ふしぎな国道 (講談社現代新書)

作者:佐藤 健太郎
出版社:講談社
発売日:2014-10-17
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Q.佐藤さんは『医薬品クライシス』『炭素文明論』などの硬派のサイエンス作品で高い評価を得ていらっしゃいますが、こんなご趣味をお持ちとは知りませんでした。なぜ国道にはまってしまったのでしょうか?

マニア歴17年の熱狂的な国道マニアであることをカミングアウトした、サイエンスライターの佐藤健太郎さん

A.まずはドライブが好きで、あちこち走っていたことから始まりました。で、道路をよく観察していると大小の謎が見えてくるんですね。なぜ、いったん終わったように見える国道が再度現れるのか、なぜ国道100号や111号は全国どこにもないのか、なぜ階段やけもの道みたいな道路が国道指定されているのか。そうした謎を解き明かすことに、どうやら喜びを感じるようです。

Q.それにしても、なぜ鉄道や飛行機ではなく、国道に? 自動車というならまだ理解できますが・・・

A.どうも、僕は1から順に番号がついているものが好きなようです。本業である、化学の元素周期表もそうですし。なので、国道は好きでも高速道路にはあまり興味が湧かないのかもしれません。

Q.番号がついているものが好き、というのは理系の方の特徴なのでしょうか?

A.ある学会でこの話をしたら、ものすごく共感してもらえたので、たぶん研究者の中にはそういうタイプの人が少なからずいるのでしょう。多くの国道関連書籍やDVDを出している有名な国道マニアの方も、やはり本業は化学の研究者です。何か通底するものがあるんでしょうね(笑)。

Q.この本を読んで、「酷道マニア」「標識マニア」「道路元標マニア」など、かなり細分化されているのに驚きました。佐藤さんは一通り精通しているようですが・・・。個人的にはどの分野が一番強いのでしょうか?

ガードレールもなく対面交通ができないような悪路を好んで走る「酷道マニア」

A.鉄道と同じで、道路マニアにも多くのジャンルがあります。廃道を探検する人、ある地点から地点までの最速ルートを見つけ出すことに命をかける人、有料道路のレシートをコレクションする人など、僕の目から見ても不思議なジャンルがたくさんあります(笑)。

僕自身は、国道の旧道を追いかけ、かつてどういう経路をたどっていたかを探り出すのが好きです。天下の国道○号が昔はこんな道だったのか!と驚くことも多いですし、古い町並みの残る街道筋を歩いていると、長く重ねられてきた人々の生活の息吹が感じられて、ちょっとしたタイムスリップ気分を味わえます。 

国道マニアなら誰でも存在を知っている「階段国道」

Q.本書を読んでみて改めて思ったのですが、国道の番号の付け方やら選定方法はいい加減ですね。車が通行不能や階段や登山道、アーケードが国道指定されたりして、どうしてこんなことに?

A.道路というのは生き物で、都市の発展に合わせてどんどん姿を変えていきます。あまり細かい規則で縛ると、不都合が生じた時に変更が面倒になってしまいます。ちょっとした経路変更のたびに、いちいち国会で議決が必要となったら、手間がかかって仕方ないですからね。まあそういうゆるさが、政治色の強い道路の建設につながってしまっている面はありますが……。
 しかしそのわりに、国道起終点の規定などはやけに厳格に守られていたりして、こういう変さ加減もウォッチャーとしては面白いところです。

Q.本書の中には道路標識の英字のミススペルを見つけるという話がありましたが、どうやって見つけることができるのでしょうか。一般道でも40㎞~50㎞は出ていますよね。走行中になぜそんなことができるのでしょうか?

間違い探し。なにが間違っているのでしょうか?

A.「ROUTE」のスペルが間違った標識が全国に何枚かあり、僕も2枚見つけました。なぜか、標準とちょっと違ったものを見ると背筋がぞっとするような感覚が走り、それで気付きます。趣味で囲碁をやっているせいか、パターン認識能力が普通より高いのかもしれません。

Q.私は国道初心者なのですが、ドライブに最適なお薦め国道をいくつか紹介していただけないでしょうか?

A.ドライブという観点であれば、北海道なら富良野や美瑛を通る237号、東北なら十和田湖畔や奥入瀬を行く102号が素晴らしい。関東から中部なら、日本国道最高地点の渋峠(標高2172m)や、草津温泉・志賀高原を通過する292号などどうでしょう。関西なら、熊野街道の流れをくむ311号が紀伊半島には珍しく走りやすい道で、よいドライブコースです。

ドライブコースとして〝鉄板〟の、しまなみ国道こと国道317号

中国・四国は、瀬戸内海を渡る「しまなみ海道」こと317号が鉄板でしょう。九州のシーサイドラインはどれも素晴らしいですが、長崎~天草~熊本をフェリーと橋でつなぐ324号が楽しいでしょうか。他にもよい道はたくさんありますので、もう一冊書いてもよいくらいです。 

Q.本書では、悪路を走行する酷道についても紹介されています。お薦めできない酷道(笑)をいくつか紹介していただけないでしょうか。

A.ほとんどの期間が通行止めという「幻の酷道」こと、471号楢峠あたりでしょうか。延々と細い区間が続き、脱出路も少ない425号や477号なども、初心者はやめておいた方がよいでしょう。とはいえどの酷道も、雨天や夜間、積雪時などの条件が悪い時に、無理して走るべきではありません。危険ですし、他人に迷惑をかける可能性も高いですので。

Q.本書の中では、様々なマニアックな趣味が紹介されていますが、一番笑ったのが、国道のありがたさを知るために、あえて国道を走行しないで目的地に向かうという「非国道走行」です。これはゲーム性の高い趣味ですね。

A.国道を十字路で越えるのはよいが、あとは高速道路や国道を一切用いず、県道や市道などだけで目的地へ行くというルールです。あと少しでゴールという時に、目の前に国道が横たわっていた時の絶望感といったらもう(笑)。東京から大阪までの非国道ルートは不可能とも思われたのですが、実際に走って可能であることを証明した人が現れた時には、さすがの僕も驚嘆しました。

Q.本書では、国道にまつわる様々な謎が紹介されていますが、佐藤さんでもまだわからない謎はあるのでしょうか?

A.たくさんあります。たとえば国道246号永田町バイパスです。2006年に、永田町付近の都道が、いつの間にか国道246号の枝線に指定されていました。こういうケースは、他ではほとんど見たことがありません。で、この枝線は、途中で不自然に曲がっています。なんでこのルートなんだろうと地図をよくよく見てみたら、どうやら自民党本部と首相官邸の間を結んでいるように見えます。何か意味があるんだろうなと思いますが、謎ですね。

Q.ところでこうした趣味に対して、ご家族はどのような感想をお持ちなのでしょうか

A.妻は、国道趣味の何が面白いのかまるでわからないけど、どうやら仕事にもなっているようだから生暖かく見守るか、というスタンスのようです。幸い妻も娘もドライブは好きなので、あまり無茶をしない限り笑顔で付き合ってくれているのはありがたいですね。人には「国道の妻たち」と呼ばれているようですが(笑)。

Q.最後に御本業である(笑)サイエンス分野での次回作について教えてください

A.近く某社から、「化学の力で人類の夢はかなえられるか」という内容の、軽い読み物を出します。来年には「世界史を変えた医薬品」というテーマの本を、講談社現代新書から刊行予定ですので、こちらもご期待いただければと思います。
 

佐藤健太郎(さとう けんたろう) 1970年兵庫県生まれ。東京工業大学大学院理工学研究科修士課程修了。医薬品メーカーの研究職を経て、サイエン スライターに転身。2009年から3年間 東京大学大学院理学系研究科広報担当特任助教をつとめる。2011年ウェブ・書籍などを通じた化学コミュニケーション活動に対して、第一回化学コミュニ ケーション賞を受賞。主な著書に『医薬品クライシス』(新潮社、科学ジャーナリスト賞2010を受賞)、『有機化学美術館へようこそ』(技術評論社)、『創薬科学入門』(オーム社)、『「ゼロリスク社会」の罠』(光文社)、『炭素文明論』(新潮選書)などがある。
ふしぎな国道 (講談社現代新書)

作者:佐藤 健太郎
出版社:講談社
発売日:2014-10-17
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