パスタといえば、炭水化物の代表格といって良いような存在です。『男のパスタ道』購入者の併読ランキング上位に『炭水化物が人類を滅ぼす』を見つけ、ついつい笑ってしまいました。今月は、食欲の秋に向け、料理をテーマにした本2冊を分析してみます。
『男のパスタ道』併読本ランキング(WIN+調べ)
RANK | 銘柄名 | 著訳者名 | 出版社 |
1 | 『人に強くなる極意』 | 佐藤 優 | 青春出版 |
1 | 『dancyu日本一のレシピ』 | プレジデント社 | |
3 | 『炭水化物が人類を滅ぼす』 | 夏井 睦 | 光文社 |
3 | 『里山資本主義』 | 藻谷 浩介 | KADOKAWA |
5 | 『人間にとって成熟とは何か』 | 曽野 綾子 | 幻冬舎 |
5 | 『実践日本人の英語』 | マ−ク・ピーターセン | 岩波書店 |
5 | 『dancyu』 | プレジデント社 | |
『男のパスタ道』は非常に変った料理本です。
① 出版社が日本経済新聞社
② サイズが新書
③ レシピが結局一つ(レシピ掲載数は料理本仕入の中で結構重要な要素です)
これだけでも我が社の仕入担当者は、悩んだに違いありません。そして販売の結果、読者の構成比も大変ユニークなグラフになりました。
参考までに、男性読者が比較的多いと言われている『きょうの料理ビギナーズ』の読者層がこちら…
定年前後の年齢になって料理を趣味にするという男性が増えているようですが、この『男のパスタ道』を手にする方はそこから一歩先に進んでいる気がします。「料理をする」ではなく「料理でヒトを唸らせる」これくらいの違い。”パスタ道”を極め、『dancyu 日本一のレシピ』でこだわりのレパートリーも増やしつつも、糖質制限というブームに対しては、ダイエットHowto本からではなく、理論から攻め入る。そんな姿が透けて見えてきました。
*
ビジネス寄り料理本として注目していたもう1冊、『家めしこそ、最高のごちそうである。』も見てみましょう。(※HONZの連載はこちら)
『家めしこそ、最高のごちそうである』併読本ランキング(WIN+調べ)
RANK | 銘柄名 | 著訳者名 | 出版社 |
1 | 『女のいない男たち』 | 村上 春樹 | 文藝春秋 |
2 | 『食べものだけで余命3か月のガンが消えた』 | 高遠 智子 | 幻冬舎 |
3 | 『暮しの手帖』 | 暮しの手帖社 | |
4 | 『家めしの王道』 | 林 望 | KADOKAWA |
4 | 『しない生活』 | 小池 龍之介 | 幻冬舎 |
4 | 『461個の弁当は、親父と息子の男の約束。』 | 渡辺 俊美 | マガジンハウス |
女性層の多さ、併読タイトルとも『男のパスタ道』とは大きく異なった結果となりました。同じ男性著者のレシピ本でも、出版社やテーマで大きく購買層が変ってきます。とはいえ、最も読まれている雑誌が『暮らしの手帖』だったのは面白い結果でした。ちなみに『男のパスタ道』読者に支持された『dancyu』は、『きょうの料理』と並んで8位にランクインしています。
なお『家めしこそ、最高のごちそうである。』は、9月18日に続編にあたるビジュアル版『いつもの献立がごちそうになる!新・家めしスタイル』が発売になるとのことで、こちらも注目です。
*
さて、それでは今回取り上げた本、雑誌の購買履歴からこの秋注目したい「料理・食べ物に関する本」を紹介させていただきます。
大ヒットした前作『英国一家、日本を食べる』の第2弾。料理を食べるという行為だけでなく、食材や食文化に対する著者の視点が興味深いエッセイ。和食が世界無形文化遺産になったというニュースも記憶に新しい中ですが、自分たちが当たり前だと思っていた食を見つめ直す機会ももらえそうです。
言われてみれば、石油が人類にとって争いのもととなる前はずっと塩を巡った争いが続いていたのですね。探し求められ、課税対象とされ、敵に贈ったと言って歴史に語り継がれる塩。その世界的歴史と出来事を描いた本です。難しく見えますが、塩にまつわるエピソード集として読めそう。
野菜も、肉も「野生状態にあるもの」が口に入る事はほとんどないと思います、一方で魚については自然の状態のものを捕ってくる「狩り」がいまだ行われているのだな、と感慨深く思った事があります。しかし漁業を巡る課題は山積、漁獲量はピーク時の半分以下となり、跡継ぎ問題など就業者も激減。ニュースで小耳に挟んでいた問題がコンパクトにまとめられています。
食べる事に興味がある読者に最近注目されている、食に関するノンフィクションがこちら。食情報の氾濫の一方で、忘れかけている食文化について考えさせられます。
イスラム圏といえば飲酒厳禁の国。「本当にお酒を飲まないんだろうか」と疑問に思う酒好きは私だけではないはずです。でもそれを行動に移してしまうのが高野秀行という人の凄いところ。イスラム社会の建前を、徹底した好奇心と追求力(欲望?)で解き明かした紀行本。飲食に興味をお持ちの方にはぜひとも読んでおいて欲しい1冊です。 (※レビューはこちら)
*
今回データを紐解いていく中で、終始強い存在感を示し続けたのが『dancyu』です。ビジネス書出版社のプレジデント社が、なぜグルメ雑誌を出しているのだろう。と常々不思議に思っていましたが、ビジネス書出版社だからこそ掴める読者がいて、その層、ニーズにきちんと届いているということを今回確かめることが出来ました。
衣食住基本的なところが足りた上だからこそ、一つの料理に徹底的に向かい合う事だったり、食材の秘密に迫ることだったり、文化について考えることだったり、と好奇心は多方向に広がっていきます。お腹も知識も充実の秋になりますように!
古幡 瑞穂 日販マーケティング本部勤務。これまで、ながらくMDの仕事に携わっており、各種マーケットデータを利用した販売戦略の立案や売場作り提案を行ってきた。本を読むのと、「本が売れている」という話を聞くのが同じくらい好き。本屋大賞の立ち上げにも関わり、現在は本屋大賞実行委員会理事。