この本のなにがいいって、まずタイトルがいい。そして装丁も素晴らしい。おもしろそうな匂いがぷんぷんしてくる。こういった本に出会ったときは、中身を確かめる必要などない。おもしろいに決まってるのだから。私はこういう買い方をしたときには、ハズレを引いたことがない。今回も間違いなく大当たり。めちゃくちゃおもしろい食エッセイの本だったので紹介したい。
イギリス人の著者が、日本人の友人から渡された辻静雄の『Japanese Cooking : A Simple Art』を読み、感銘を受け、実際に日本の料理を目で見て味わってみるしかないと思いたつところから物語は始まる。そのアイデアを妻に話したところ、「私も日本に行きたいわ。子どもたち連れていくといいわね。」といわれ、意図せず家族4人で日本にいくことになる。
家族で日本にいくというのが、この本のミソだ。仕事で淡々と食べ物のことを取材したのではなく、家族の目を通した日本の姿が描かれていることで、話に彩りを与え、話をを豊かなものにしている。また家族がいることで、色々と寄り道をすることになり、そこから日本のいまが垣間みえるのだ。私たちが当たり前に見ている風景が、こんなにも輝いて見えるのかという驚きがいたるところにある。そこに外国人ならではの勘違いがスパイスとなって笑えるのだ。この本は食エッセイというより、日本珍道中記とでもいったほうがいいかもしれない。
東京、京都、大阪といった主要都市はもちろんのこと、北は北海道から南は沖縄まで、町の食堂から、一見さんお断りの高級料亭まで、3ヶ月間、日本中を食べ歩き、料理や食材、店の雰囲気について率直な感想が述べられている。また料理の背景や地域の歴史、特色にまで目を向け、日本人である自分でも知らなかったことまで詳しく書かれている。
美味しかったものだけでなく、口に合わなかったものや、もてはやされている割には、たいしたことがなかったものなどが、飾らない言葉で書かれているのもいい。全体的にちょっと辛口だが、そこに愛が感じられるので、これが読んでいてとても心地いいのだ。
がっかりの代表は流しそうめんだ。山道を5分歩けばつくといわれたのに、店にたどり着くまで、1時間近くかかり、やっとのことで店についたと思ったら、ウェイトレスには舌打ちされ、腹ペコでたべた流しそうめんはなんだか期待はずれ。まさにふんだり蹴ったりである。
逆によかったのは、お好み焼きだ。世界に広まる次の日本料理のトレンドはお好み焼きじゃないかとまで書いている。お好み焼き屋をやっている人は早急に海外進出を検討したほうがいいかもしれない。
なぜかテレビの撮影現場にまで潜入している。日本は世界から見ても食に関するテレビ番組が圧倒的に多いらしい。料理番組を見学したいといったら、コーディーネーターがなぜかビストロスマップの撮影現場に著者を連れていった。SMAPが料理をつくるところを見学し、SMAPのメンバーの印象を述べているのもおもしろい。他の3人はあまり目立っていなかったというのには笑ってしまった。(どの3人かは本を読んで自分で確認してほしい。)
外国人からすると日本の料理は特殊らしい。まず日本では当たり前である、だしをとるという習慣。これは他の国の料理にはないそうだ。日本の料理では、だしは必需品である。また当たり前のように食べている豆腐やこんにゃく、味噌といった食材も、外国人からすると、なんて不思議なものを食べているんだ?と思うらしい。
“日本料理は見かけによらず単純で、大切な素材はふたつしかありません。昆布や鰹節でとるだしと、大豆で作る醤油です。”
本文に出てきた辻静雄の『Japanese Cooking : A Simple Art』からの引用だ。だしというのは日本料理のかなめであり、日本の食の真髄であるのだな。とこの本を読んで改めて知った。また旬のものを素材を生かした調理法で食べることや、食感を大事にするといったことも、日本料理独特のものらしい。日本料理って素晴らしいんだということに改めて気がつかされた。日本の食の豊かさは世界一である。当たり前のように身の回りにある日本の食というものに、もっと感謝をしていかないといけないなと思うとともに、日本の食についてもっと意識して暮らしていきたいと思った。外国人の目を通して日本を見ることで、日本にいながら、日本の食と文化を再発見できるというとてもお得な一冊である。
本著に出てくる辻静雄の日本料理のバイブル。読んでみたいと思ったら日本語版は絶版であった。残念。