似て非なる言葉というのは、世の中に数多く存在する。だが、どこが似ていて、どこが違うかを正確に説明するとなれば、言葉の定義をきちんと理解していることが必要だ。
とはいっても諸説あるのが、言葉の由来。それらのルーツを吟味しながら現場へと足を運び、さらには言葉の違いの決定的瞬間を写真に収める。そんなチャレンジに果敢に挑んだのが、本書『似ていることば』である。
2枚の並べた写真を見比べることで違いに気付き、めくった次頁の説明によって言葉で理解する。この発見と理解という二つの欲求を、一度に満たせる編集の妙。さらに似ていることばのチョイスも、「知っているようで、知らない」ものばかり。全38組の言葉の中から、そのいくつかを紹介してみたい。
◆「足」と「脚」は何が違うのか?
英語にすると「足」は「Foot」で、「脚」は「Leg」。つまり「足」は足首から下を指し、「脚」は太腿から下を指す。ここら辺は、まだウォーミングアップ程度。
◆「糸こんにゃく」と「白滝」は何が違うのか?
材料が全く同じである「糸こんにゃく」と「白滝」。その違いは作り方にある。こんにゃくが固まった後に突いて作るのが「糸こんにゃく」、材料を湯の中に糸状に流し込んでから固めていくのが「白滝」。形状が決まるのが、固体の時か液体の時かという違いである。
◆「原料」と「材料」は何が違うのか?
基準は、元となったものの形の有無にある。原型を留めていないものが「原料」で、留めているのが材料。大豆と醤油と納豆の三角関係で一目瞭然に伝わってくる。
◆「使用」と「利用」は何が違うのか?
一見、混同されそうな二つの言葉にも、明確な違いがある。本来の目的で使うのが「使用」、本来の目的外で使うのが「利用」。「利用」という言葉自体が、本来の目的外で使われることも多いからややこしい。
◆「卵」と「玉子」は何が違うのか?
この二つは差異というよりも、包含関係にある。「玉子」というのは玉のように素晴らしいことを意味し、料理したものだけに使う字である。
◆「制作」と「製作」は何が違うのか?
個人的に一番感動したのがこれ。いつも見積を作る時に気になっていた。芸術品を作るときは「制作」、実用品をつくるときは「製作」とのこと。納品時にどちらの言葉を使っているかに着目してみると、作り手の意識が見えてくるかも。
◆「林」と「森」はどう違うのか?
知っているようで、意外と知られていないのがこちら。木の数の違いだけで決まると思っている方は、少し甘い。林は「生(は)やす」、森は「盛り上がる」から転じた言葉という説が有力だ。この説に則ると、人間が意図して生やしているものが「林」、自然のままのものが「森」と定義づけることが出来る。
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言葉の違いを求めて語源を遡のぼっていけば、そこから先人の知恵や暮らしぶりが見えてくる。さらに似た言葉を並べることによって、違いが明確になるだけでなく、共通項となるモチーフが補助線のような役割を果たしてくれる。それが転じて面白さを生み出しているため、大人から子供まで誰もが楽しめる仕上がりだ。
著者は前著『目でみることば』でおなじみの、おかべたかし(文)と、やまでたかし(写真)。名前まで似ている二人の違いは、話してインテリジェンスを感じる方と、カメラを持っている方とのこと。(やまで氏・談)
本書の主要な参考文献は、ほとんどが辞書や事典。無味乾燥なデータベース的なものを、どのようにコンテンツでマーケティングするかという観点から捉えても、参考になるべき点は多い。ビジュアルでアテンションを作り、並べた言葉で興味を惹く。読んだ後は検索で調べたくなるし、人に話したくなる拡散能力も高い。広告技法によく似た面白い作りだと思う。
雄弁なる「ことば」の写真集。まさにバイラル時代のコンテンツ制作はかくあるべしな一冊。
<画像提供:東京書籍株式会社>
感心するのが、前著と書名が似ていること。
以下、バイラルコンテンツ系の書籍。