おとめ座は計画的で潔癖。さそり座はミステリアスで一途。みずがめ座は個性派でクール。そんな星座による性格分析を聞いたことはないでしょうか。女性なら、星占いなどでおなじみだと思います。そんな各星座それぞれの特徴を捉えて描かれた女の子たちが登場するのが坂崎千春さんによるコミックエッセイ、『迷子の星座たち』です。
坂崎千春さんといえば、かのJR東日本のICカード「Suica」のペンギンや、千葉県のマスコットキャラクター「チーバくん」、さらにはダイハツの自動車ムーヴコンテの「カクカクシカジカ」などを手がけた人気イラストレーターです。
イラストレーターとして活動する一方で、実は2002年に『片想いさん』(WAVE出版)というエッセイ集を刊行しています。ちょっとした出来事から相手との距離を感じてしまったり、孤独感やコンプレックスに悩んだりする「片想い」の様子を描いていて、共感しまくりの、切なくなること間違いなしの名著なんです。
このエッセイ集に救われた女子がたくさんいるはず……。ファンの一人である私も、いつか女性の心の機微を描いていただきたいと思い、はじめてお会いしたのが2010年。なんども打ち合わせをしながら、星占いが大好きな坂崎さんとの間で生まれたのが『迷子の星座たち』でした。各星座ごとに8ページのコミックと2ページのエッセイで構成されており、それが十二星座分描かれています。
ストーリーのテーマは、日常にありふれたささいなこと。彼氏とけんかをしてしまった、仕事が忙しくてなんだか疲れている、ひさしぶりに恋のはじまりを感じた等々。けれども他愛もないことだからこそ、それをどう捉えるかにその人の本質が表れると思うのです。女の子たちはその心のささくれのようなものを、各星座ならではのやりかたで受け止め、ほんの少しだけ前に進みます。
「ここに出てくる十二人の女性は、架空の人なのだけれど、ずいぶん前から知っていた友達のようでもあり、自分の分身のようでもあります」(まえがきより)
と、坂崎さん自身がおっしゃっているとおり、自分自身や、自分の友達を見ているような気持ちで、「うんうん、わかる」「そういうことあるよね」と登場人物に共感して応援したり、逆に元気をもらったり……。だからといって一足飛びに事態が進展したり、問題が解決するわけではないのもまたいい!現実がそう甘くないことは女性たちも分かっています。あなたはあなたのままでいいんだよ。そう優しく背中を押されているような気持ちになる物語なのです。
物語中にはたびたび、猫やハムスターなどが主人公たちが飼っているペットとして登場するのですが、坂崎さんが描いてきた、かの有名なキャラクターたちを彷彿とするようなまるっとしたシルエットに、飼い主に対するシニカルな心の声が記され、それがとてつもなくかわいく、物語のスパイスとなって効いてきます。
エッセイでは坂崎さんと各星座の女の子たちとの思い出が語られ、読むほどに坂崎さんの人となりや、観察力、人への接し方が透けて見えてきます。
坂崎さん自身はやぎ座。やぎ座らしさ、といえば真面目、こつこつ努力する、堅実というイメージですが、ご本人はそう思っていなかったらしく、友人たちのある言葉で意外な自分の姿に気づいたとエッセイ中で書かれています。読者のみなさんも、自分の思わぬ一面に気づくかもしれません。
かくいう担当編集の私はおとめ座。おとめ座についてのエッセイでは「同士よ!」とタイトルをつけて「素の自分が出せるような気がする」とのこと。やぎ座とおとめ座は同じグループに属するんだそうです。この本は坂崎さんと「この子はこういうときどうするのか」と何度も相談をしてできた本です。坂崎さんの根っこにある思いを私が少しでも引っ張り出して表現するお手伝いができていれば本当にうれしく思います。
坂崎さんのイラストのファンの方々にも、エッセイのファンの方々にも応えるかわいい本です。どうか多くの人に届き、癒しとなりますように。
小説誌、単行本、文庫など文芸書を中心に編集。WEBマガジン「コフレ」編集長。