夏休みに恋人や家族と出かけた先でクマに出くわしたら、どう対処するか。ヘビに遭遇したらどう振る舞うか。こうした、真木よう子にいきなり求愛されるくらい小さい確率を気にかけてしまう妄想力が逞しいあなたにおすすめなのが本書だ。いつもは家族の前では読めない本ばかり紹介している私だが、今回は世間が夏季休暇の直前と言うこともあり、家族と一緒に楽しめる一冊を紹介したい。
表紙を見て分かるように、子供を意識したつくりである。子供から大人まで楽しめると書いてある。実際、本文の漢字には平仮名でルビがふられており、小さな子供でも読める。「こども扱いかよ」と突っ込まれそうだが、残念ながら、私も含めて世の成人の多くは、本書で紹介されているクロドクシボグモとセアカゴケグモの区別もつかないはずだ。アマゾンでのハンティングが趣味なタフガイ以外この本で十分に足りる。
計72の動物ごとに体の大きさ、生息地、襲われた時の危険性や対処法などを紹介する。ヒグマやイノシシ、オオスズメバチからの身の守り方や蛇に噛まれたときの処置などは、実用的で思いもよらず参考になってしまった。
「思いもよらず」と記したのは、本書の最大の醍醐味は、本を通じてまだ実際に見たことのない危険生物との戦いに妄想を膨らませることだからだ。イリエワニ、コモドオオトガゲ、タイガーシャーク、ハイイロオオカミ、ピラニアなど。果たしてオレは勝てるのだろうかと。
イリエワニと対峙してしまったらどうするか。著者は言う。
背中に飛び乗って、ベルトで口をしばれ
読者が「ゴルゴ13」並の屈強な肉体を持っている前提としか思えないこのアドバイス。だが、平均時速17キロメートルで走り、4メートルとも言われる跳躍力を持つイリエワニ。対峙してしまったら逃げ切れない。こちらの背中を見せたら終わりかもしれないことを考えれば合理的な選択なのかもしれない。ゴルゴ13も言っていた。「オレの背後に立つな」って。
ピラニアに出会ってしまったらどうするか。著者は言う。
好物の肉を投げるのが一番
イリエワニの背中に飛び乗る、オレ。彼女がピラニアに襲われそうなところをなぜか持ち合わせている肉を颯爽と取り出し、豪快に投げるオレ。本書を読んでいると旅に出なくても、クーラーがキンキンにきいた部屋でも想像力をかきたてられる。
家族と一緒に楽しめると冒頭で書いた。確かに小さな子供や動物に興味のない彼女とも想像力を膨らまして和気藹々と話せる内容だ。だが、一方、読み進めると無力感に襲われる。組織や肩書きを抜きにして、生身のオレはどこまで戦えるのか。もしかしてオレはオニヒトデにも勝てないのではないのか。ツェツェバエの方が一生懸命に日々戦っているのではないか。おちゃめな表紙と対照的に、意外にも人間の本質を問う一冊である。って、さすがにそれは無理があるか。
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