今回のブラジル・ワールドカップで、日本のテレビ局に提示された放送権料は400億円。NHKはその7割を負担しているといわれている。現在、受信料を支払っている世帯数は3500万弱だから、1世帯あたりの負担は800円となる。この負担額が高いか安いかについては、これから議論になるかもしれない。
ともかく、この巨額の放送権料の支払いを正当化するため、NHKを含む在京キー局と親会社の新聞社は必死の番宣、というよりも国を挙げた熱気作りにいそしんでいるように見える。この眩しすぎる煽りに踊らされたくないなと思っていたところ、本書を発見したのだ。『日本の蹴鞠』である。
出版社は光村推古書院。明治20年創業時には錦絵の版元であった。この出版社の名前には馴染みがなくても、出版物には見覚えのある人が多いかもしれない。『京都名庭園』『京都時代MAP 幕末・維新編』『京都おみやげ大全』『京のならわし 冠婚葬祭贈答法Q&A』など、京都好きであればつい買わされている本が多い。山口晃画伯の『さて、大山崎』もこの出版社からだ。
著者は医師でもあり真言宗の僧侶でもある池修さん。蹴鞠保存会理事にして京都市伝統行事・芸能功労者でもあるというから、ご自身も熱心な蹴鞠実践者である。それゆえに本書はまさに蹴鞠のすべてを知ることができる1冊に仕上がっている。
蹴鞠の歴史はもちろん、ピッチとしての鞠庭の作り方、公式球である鞠の作り方、1000年以上の歴史を誇るユニフォームなどの基礎知識はもちろんだが、実際にプレーするための、鞠の蹴り方の詳細、鞠庭への入退場法、鞠足の心構えなどの知識も得ることができる。ここまで前半。
後半では蹴鞠の文化を知ることができる。風水、陰陽五行、宗教、芸能、武道、女性との関わり、蹴鞠の御利益、蹴鞠の不利益、蹴鞠の美意識など、まさに漏れなく蹴鞠を知ることができる。参考文献も豊富で平安時代から江戸時代までつづく蹴鞠プレーヤーの家系図などのほか、英語とフランス語の要約まで付属している。
さて、本書を買った理由なのだが、帯に「サッカーを語るために!蹴鞠のすべてを解説」とあったからなのだ。なるほど日本人であれば、蹴鞠の一つも語る知識をもってスタジアムに赴きたいものだ。たしかに時宜を得た刊行物である。口絵のカラー写真、本文中の図版も豊富で、じつに丁寧に作られている。ともかくこの1冊で蹴鞠のすべてが語られているのだから、一家に一冊あっても良かろうと思うのだが、その判断は書店店頭でされたほうが良いかもしれない。なにしろ蹴鞠だけの本なのだ。
W杯必勝祈念蹴鞠@下鴨神社。中田英寿も参戦。