本をプレゼントする、という文化はもっと定着してほしいなと思っています。でも、どんな本を贈ったものか、けっこう悩んでしまいますよね。今回紹介する『20世紀エディトリアル・オデッセイ』は、文化系の後輩にプレゼントするには最適な1冊です。
太鼓判ガンガンおします!!
『an・an』創刊当初のエッジィさ
20世紀に刊行された様々な文化系の雑誌がどのように時代を作ってきたのか、生粋の雑誌マニアである2人の著者ならではの深堀りがアツい。たとえば、現在はちょっとセクシーな女性誌として話題になることの多い『an・an』が、創刊当初はすごくエッジィだったというのを知っている人もいらっしゃるでしょう。
そう、初期『アン・アン』は、急進的で前衛的な女性誌でした。本書の著者たちは、その『アン・アン』がもっとも先鋭的だった時代のスタッフたちへインタビューをしています。
『アン・アン』の創刊に立ち会った新谷雅弘氏は、創刊号から初期『アン・アン』の方向性を担っていた堀内誠一氏の考え方を振り返って次のように語ります。
モデルはちょこっと座っているだけで、あとはまわりの空間が占めている。見せ方のほうを凝るというファッション写真ですよ。服を見せるんじゃなくて、場所から生まれるドラマと言うか。(中略)
ロケーションをとても大事にしている。まず場所を見せるということがすごく大事、それがおもしろいんだ(中略)
『アンアン』はファッション誌じゃないわけですよ。
この堀内誠一氏とは、60年代に澁澤龍彦と伝説の雑誌『血と薔薇』を編集、絵本作家として詩人の谷川俊太郎氏と組み「ことばのえほん」シリーズや「たくさんのふしぎ」を世に送り出した人物。『POPEYE』『BRUTUS』『オリーブ』のロゴは現在でも堀内氏がデザインしたものが使われている。こんな人物が当時の誰もを驚かせる雑誌を作り出した、というのは必然だったのかも知れません。
クールジャパンの未来のために
クールジャパンというスローガンについての是非はさておき、少なくとも一部の海外の人々にオタク文化が憧れられているというのは事実です。「コミケ」が、そのオタクカルチャーの代表的なイベントであることはよく知られています。しかし、コミケが何なのかまで知っている人はどれくらいいるでしょうか。
テレビで面白おかしく取り上げられているのを見たことがある、何度か足を運んだことがある、その程度の知識や経験を持っている人はたくさんいると思います。でもそのコミケがどのようにして生まれたのか、そこで発信されてきた「同人誌」がどのようなものだったのか、それを理解している人はあまりいません。
本書には、コミケの創成期をビジュアル面から振り返る章があり、貴重で美しい同人誌の数々が紹介されています。自分の文化を知らない人は、クールジャパンといきがってみても、深い影響力を持つことはできないでしょう。本書では、「オタク文化の祭典」がどのように生まれ、育まれていったのかをビジュアルに知ることができるのです。
文化の未来のために
本書には、インターネット登場前夜、そしてインターネット登場直後の、いわゆる「紙」側の状況も紹介されています。「情報を最も高速に圧縮して流通させるもの」としての雑誌やインディペンデントな出版物が、より速いメディアの登場を前にどのように振る舞ったのか。その姿はまるで、幕末の志士や維新直後の混乱期を生きた偉人たちのようにも見えるかも知れません。歴史上の傑物の生き様にならって、現代の混乱を生き抜こうとする人たちのように、20世紀のメディアを参照することは、これからのメディア環境を考えるのに非常に役立つと思います。
今年ももう2014年。21世紀になってすぐに生まれた人がそろそろリアルに中学2年生になります。彼らがいわゆる「中二病」を発症したら「21世紀生まれの自分たちは凄い」と思うかも知れません。そんなとき「いや、20世紀にもこんなにかっこいいものがあった」と言える中学生は心強いと思いませんか。彼らが大人になっていくにつれて出会う先輩や上司にとって、「20世紀の傑作群」を知っている若者は、現代に生まれたことにあぐらをかく「その他の若者たち」よりも深い教養を持った人材に見える筈です。
本書はコンパクトにまとめてはいるものの、物凄い大量の情報が詰め込まれており、気軽に読み終えられるものではありません。逆に、十年、いや数十年にわたって読み続け、何度も本棚から取り出して読み返せる1冊です。
だから、文化系の後輩には是非本書を薦めてください。プレゼントするのにも手頃な価格です。何よりも、この本が「本棚にある」ということが強い武器になるのです。
また、1901年から100年間に刊行された多くの雑誌を、その書影とともに羅列的に紹介した「雑誌曼荼羅」も圧巻。
「文藝春秋」創刊号や、知る人ぞ知るSF誌「NW-SF」、のちに「JUNE」になる元祖耽美系雑誌「comic Jun」、橋本治の全ページ手書き文字のミニコミ「恋するももんが」、ヌードと奇形児と死体写真ばかりのショッキングな「TOO NEGATIVE」、ノイズ専門誌「電子雑音」など、「この雑誌なつかしい」というものから「こんな雑誌があったのか!」というものまで幅広く紹介されています。わずか十数ページに凝縮された歴史を一望する感覚はまさに曼荼羅。
あまりに大量の情報が詰め込まれているので、その一端を紹介するだけで随分と長くなってしまいました。実に1200点にものぼる雑誌・書籍を紹介している本書には、まだまだ読まれるべきコンテンツがたくさんあります。ぜひ手にとってみてください。
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なお、来たる7月5日(土曜)には、代官山蔦屋書店で刊行記念イベントが予定されています。ご興味のある方は是非!
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『20世紀エディトリアル・オデッセイ』刊行記念 赤田祐一×ばるぼら トークイベント | 代官山DAIKANYAMA T-SITE