最近「マイルドヤンキー」というキーワードがメディアを賑わしています。これからの消費の主役とも言われ熱い視線が注がれていますが、このマイルドヤンキーという定義を提唱した原田曜平さんの著作『ヤンキー経済』が今回のテーマです。
まず、読者層を見てみましょう。
圧倒的に男性層が多く、80%は男性読者でピークは40代・50代がボリュームゾーンとなっています。女性読者も増加傾向にありますが、こちらはもう少し若い年齢の注目を集めているようです。
続いて、『ヤンキー経済』の読者の併読本です。読者が2014年3月以降に購入した本のランキング10位までを見てみましょう。
RANK | 銘柄名 | 著訳者名 | 出版社 |
1 | 『ヤンキー化する日本』 | 斉藤 環 | KADOKAWA |
2 | 『だから日本はズレている』 | 古市 憲寿 | 新潮社 |
3 | 『女のいない男たち』 | 村上 春樹 | 文藝春秋 |
4 | 『悪の出世学』 | 中川 右介 | 幻冬舎 |
5 | 『テレビに映る中国の97%は嘘である』 | 小林 史憲 | 講談社 |
6 | 『里山資本主義』 | 藻谷 浩介 | KADOKAWA |
6 | 『ニッポンの大問題』 | 池上 彰 | 文藝春秋 |
6 | 『脳内麻薬』 | 中野 信子 | 幻冬舎 |
9 | 『大人の流儀4』 | 伊集院 静 | 講談社 |
9 | 『サバイバル宗教論』 | 佐藤 優 | 文藝春秋 |
上位を占める銘柄の多くが教養新書。出版社、テーマを問わず話題の新書をあわせて読んでいるということが見えてきます。
当たり前かもしれませんが、『ヤンキー経済』の読者層からは「マイルドヤンキー」の気配は感じられません。「彼らが存在感を増している」ということを知識としてインプットし、分析、活用しようとしているいわゆる知識層の姿がこのランキングに透けて見えてきます。
「ヤンキー」というキーワードが共通していることから斎藤環さんの『ヤンキー化する日本』は断トツの併読本になっていますが、他の本を見る限り宗教・政治・科学…と彼らの興味は多岐に渡っています。併読雑誌のTOPは『COURRiER JAPON6月号』でした。この特集が“楽しく学ぶ「教養」入門”。ジャンルを問わず、教養のために本を選んで読んでいくという層と新書読者がマッチしているようです。
読者の購買履歴から、これから注目されていきそうなものをいくつか紹介したいと思います。
ヒトラー、スターリン、毛沢東という歴史に残る人物たちがいかに組織のトップに至ったかという過程を描いた異色の歴史本。ビジネス書として参考にするには怖い話が多いけれども、出世主義者見極めには役立つかもしれません。
薬物関連の逮捕者は後を絶ちませんが、実は脳は脳内麻薬ともいえるドーパミンを放出して快楽を与えているのだそうです。この物質は人に褒められたり、目標達成をしたりするなどという真っ当な喜びの時にも放出されます。「やめたくても、どうしてもやめられない」ものにはこの脳内麻薬が深く働いているのだけれど、どうして人間はそんな進化を遂げてしまったのだろう?という謎解き本。科学的な本に思えますが、自分の行動と照らし合わせて読む人も多い1冊です。
併読本に教養新書が並ぶ中、最も読まれたノンフィクション単行本がこちら。グローバルに仕事をするためには、自国・他国の歴史を学ぶべき。とよく言われますが、中高生の頃暗記しなければならない項目の多さに挫折を経験した私などにはどうにも手を出しづらいものです。仕事に効くポイント中心に論じられた世界史だったら、私にも読めそう。これを起点にもういちど世界史の勉強を始めたという人もいるようです。
HONZの『ヤンキー経済』のレビュー内に、“マーケッターなどは本書から得るところ大であろう”という記述がありました。マーケッターなど、対象を分析して資料を作成する職種の多くの方々が手に取ったであろうということが、この1冊から浮かび上がってきます。資料作成術、思考法、英会話等のビジネスHow to本も目立ちました。こちらは、効果的なパワーポイント資料を作るための具体例に満ちた手法集です。
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さて、もう一度『ヤンキー経済』に話を戻します。彼らはいったいどんな本を読んでいるのでしょう。マイルドヤンキーにはEXILEがテッパン人気だそうです、『月刊EXILE』の読者を見てみたところ、女性ファン(しかも40代がコア)が多くちょっと参考にはし難かったため、その併読誌の中で最も男性読者の多かった『Samurai Magazine』読者の併読書、かつ男性の占有率が50%が超えているもの10タイトルを抽出してみました。
RANK | 銘柄名 | 著訳者名 | 出版社 |
1 | 『Samurai magazine』 | インフォレスト | |
2 | 『ONE PIECE 73』 | 尾田 栄一郎 | 集英社 |
3 | 『Ollie』 | 三栄書房 | |
4 | 『黒子のバスケ 26』 | 藤巻 忠俊 | 集英社 |
5 | 『BLEACH −ブリーチ− 62 』 | 久保 帯人 | 集英社 |
6 | 『トリコ 29』 | 島袋 光年 | 集英社 |
7 | 『WOOFIN’』 | シンコーミュージック | |
8 | 『Samurai ELO』 | 三栄書房 | |
9 | 『411(フォー・ダブワン)』 | 三栄書房 | |
10 | 『ドロップOG 8』 | 鈴木 大 | 秋田書店 |
抽出した10銘柄のうち5銘柄がコミック、あとはストリート系ファッション誌などが並んでいます。出版業界関係者としてマイルドヤンキー層とどう向き合っていくか、このランキングを見ながら思いを馳せてみることにします。
古幡 瑞穂 日販マーケティング本部勤務。これまで、ながらくMDの仕事に携わっており、各種マーケットデータを利用した販売戦略の立案や売場作り提案を行ってきた。本を読むのと、「本が売れている」という話を聞くのが同じくらい好き。本屋大賞の立ち上げにも関わり、現在は本屋大賞実行委員会理事。