この本はいまごろ、書店のどのあたりに置かれているのだろう。コア・コンピタンス、バランススコアカード、プロセス・リエンジニアリングなどという、カタカナ用語に埋め尽くされたビジネス戦略書コーナーの一角であろうか。それとも立派なビジネス書の売上に悪影響があるからと、占いのコーナーにでも追いやられているのだろうか。
ビジネス戦略書コーナーにあって、本書の日本語だけの長いタイトルは異質だ。刺激的なのはタイトルだけではない。帯には「前代未聞!気鋭のコンサルが内幕を暴露した全米騒然の問題作!」「マッキンゼー、デロイト……コンサルの持ち込む理論もチャートも改革も、じつは何の意味もなかった」とじつに扇情的な言葉が並ぶのだ。そして副題はなんと「コンサルタントはこうして組織をぐちゃぐちゃにする」だ。
現役のエリート戦略コンサルタントにとっては営業妨害そのものだし、経営者にとっては経営課題を丸投げできる外注先がなくなるという不安が増すかもしれない。その経営者から送り込まれたコンサルタントに悩まされていた現場のビジネスマンにとっては、これでやっと普通の仕事に戻れると溜飲を下げる本でもあろう。成績優秀な学部生にとっては就活の参考になるだろうし、MBA受講者にとってはこれまでの努力と費用の回収を心配しなければならなくなる本である。
著者はマサチューセッツ工科大学大学院を卒業後、デロイト・ハスキンズやジェミニ・コンサルティングなどの戦略コンサルティングファームでコンサルタントとして活躍してきた、いわゆるやり手のビジネスウーマンだ。その後も大手製薬会社のファイザーや日用品のジョンソン&ジョンソンの現場で、幹部としてチームを率いてきた。人も羨むそのキャリアは30年間に及ぶという。
その彼女が戦略コンサルタントの功罪を、自分が関与した実例を示しながら明らかにしていくのだ。とはいえ著者はいっぽうで、オペレーティング・プリンシパル社というコンサルティングファームを設立し、経営コンサルタントとして活躍しているというのだからややこしい。
読みようによっては、マッキンゼーやボストン・コンサルティングなどの大手はダメだから、私のファームに相談しにきなさいという勧誘ツールのようでもある。それでもなお、本書を読む価値があるとしたら、著者の率直さと優しさかもしれない。生き馬の目を抜くような業界のなかでさんざん苦労してきた女性としての視点が感じられるのだ。
多くのコンサルタントが教条主義的で、ツール万能主義的で、形式的で、いい加減な仕事をしているなかで、彼女が発見したコンサルティングの極意がある。それは
「コンサルティングにおいて重要なのは方法論やツールではなく、対話である」
「クライアント企業は経営をコンサルタント任せにするにせず、自分たちでもっとちゃんと考えるべきだ」
というものだ。つまり人間重視、対話重視のコンサルティングを展開しているのである。
本書のなかでもとりわけ人材開発に関する第6章と第7章は必読だ。そもそも社員はランク付けできるのか。評価は低くても能力を発揮する人がいるはずだ。直接本人に聞けばいいことを「スコア」で判断するは愚かだ。社員教育では何でも得意にさせようとしてかえって「凡庸」してしまう。などなど、当たり前のようだが、人材コンサルタントにとってはそれではお金にならない真実が列挙されている。
著者が本書で訴えたかったのは、これ以上職場から人間性を奪うのはやめるべきだ、ということである。人材はビジネスの一部分ではない。人材なくしてビジネスは成り立たないのだともいう。これはまさに日本企業がアメリカ生まれのコンサルを受け入れる以前の日常風景だったはずだ。