“芸は身を助ける”と言う。“好きこそものの上手なれ”の方が正しいか。ともかく、本書を読みながらそんな格言が頭の中をぐるぐる回っていた。
リアル「釣りバカ日誌」である。ハマちゃんならぬタケちゃんがユーラシア・北米・南米・オーストラリア・アフリカをところ狭しと駆け抜け、未だ見ぬ怪魚を狙う。魚類ばかりではない。時には爬虫類を、時には哺乳類を、そして時には美女をも釣り上げるのだ。
大学卒業後勤めた会社を2年半で退社し、インドで怪魚を釣る喜びを知る。そのまま釣り師となって早15年。狙うのは淡水魚ばかりだが、その大きさと異様さには驚くばかりである。
すでに第一弾『世界怪魚釣行記』が4年前に発売されているが、今回は前著を凌ぐ。連れなかった魚たちにリベンジを試み、ほとんどが成功を収めている。
釣り旅の面白さは、何も怪魚だけではない。見知らぬ土地で水辺に辿りつくまでには、多くの人々との出会いや別れがある。トラブルに巻き込まれることもあるし、地球の裏側まで旅した挙げ句、釣れずに手ぶらで帰ってくることもある。思い通りにはならない、そんなすべてが釣り旅の魅力なのである。
まえがきのこの一節に、本書の魅力全てが著されている。釣り旅を昆虫採集やランの原種探しに変えても一緒だ。マニアの「探索したい」「手に入れたい」という気持ちは、どんな危険をも凌駕し、ジャングルだって北極圏だってなんのその。後で思い出して、多分肝を冷やしているんだろう。
それにしても、世界にはすごい淡水魚がいるもんだ。最近では深海魚やダイオウイカが次々の日本の近くで獲れて、地殻変動でもあるんじゃないかと心配されているが(そうそう、昨日もメガマウスが生きたまま捕獲されたとニュースになっていた)、人が住んでいる近くの小さな川に、こんな化け物みたいなのがいるなんて。世界は広い。
ブラジルの片田舎、大アマゾンの小さな村。6年前に世話になったおっさんを、ふいに訪ねて水上家屋に居候させてもらう。釣り師にとって水上家屋は憧れの城だ。食事中も寝ている間さえ釣り竿を出せる。そんな夢のような環境で、長年の夢であったピラルクーを釣り上げてしまうのだ。(あ、左の写真はピラルクーではありません。巨体はぜひ本書で!)
開高健のあの本の冒頭を思い出す。
何事であれ、ブラジル人は驚いたり感嘆したりするとき、「オーパ!」という。
熱帯魚の店で売っている魚がその辺で釣れてしまうのだ。エンゼルフィッシュだって手のひらサイズ。ナマズの種類の多さには、なんだか笑えてしまうほどだ。
全編オールカラーで、大物をゲットしたときの高笑いが聞こえてきそうな歓喜の表情は、ぜひ本書でご覧あれ。
*写真は編集部よりお借りしました。
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