新刊・話題書コーナー。それは、店の入口付近で、その時々の売れ筋商品(最も「旬」の商品)を展開している、書店で一番目立つ売場のことです。今月は、当店の新刊・話題書コーナーにおいて最近存在感を増している「日本語」に関する数多くの新刊の中からいくつかご紹介させて頂きます。
春は、敬語の使い方に関する本がよく売れる季節です。今、当店で一番売れている本がこちら!新社会人の方だけでなく、ビジネスマナーとしての敬語をおさらいしようという30代以上の方にも買って頂いているようです。この本が優れているのは、ややこしい文法の説明が一切なく、とにかく「こういう場合は、こう言う」という具体的な例文紹介に徹している点です。例えば、「謝る」という場合の例文の中から一つ。
× ほんとに申し訳ない!
○ 平にご容赦願います。
実例 「○○の件、平にご容赦願います。」
POINT : 「平に」と言うことで、頭を下げている様子がイメージできるので、より気持ちが伝わりやすくなります。
なるほど、同じ「謝る」でも大人のモノの言い方をするだけで品格が漂います。
他にも、
× 連絡して下さい ⇒ ○ ご一報いただけると幸いです。
× 無理ですね ⇒ ○ ご希望には沿いかねます。
× 延ばしてもらえませんか? ⇒ ○ ご猶予をいただけるとありがたいのですが…
などなど、今すぐビジネスシーンで使いたい例文が盛りだくさんです。電話応対やメールの注意点なども掲載されています。ところで、この本は「使える」だけではないのです。日本語というものについてつくづく考えさせられる例文も載っています。例えば「叱る」場合のこちらの例文。
× 仕事遅いなぁ!
○ 仕事、丁寧だね。
実例 「仕事、丁寧だね。次回はその丁寧さにスピードをプラスしてみようか。」
POINT:現状をほめるだけではなく、次の目標も示す上手なほめ方、指導方法。相手のやる気を引き出せるところもポイント。
私は関西の人間だからか、こんな遠まわしの言い方はかえってキザに聞こえて思わず笑ってしまいました。これが大阪なら「あんた遅いなあ!はよやりや!」、京都なら「ほんまにのんびりしてはりますなぁ」となるのでしょうか。こんな時どう叱るのがいいのか、HONZレビュアー仲野徹先生に是非「関西版・大人のモノの言い方」をお教え頂きたい!と思いました。
なるべく婉曲に表現するという日本語の特徴、そして地方ごとの言葉の特色など、この本をめくりながら考えていくとなかなか深い味わいがあります。
昨年の春に出た本ですが、先月末に朝日新聞デジタル版の書評で取り上げられ、問い合わせが急増しています。著者が、昭和10~40年代の日本映画に出て来るセリフの中から、現代にも生かせる「昭和ことば」を集めて用例別に編集したお茶目な辞典です。
昭和時代の言いまわしを当り前に使ってきた人には懐かしく感じられ、またそれらを理解したい平成生まれの人にもわかりやすい。そして誰が読んでも思わずクスリと笑ってしまうユーモアたっぷりの文章ととぼけたイラストが魅力です。
例として「恋愛編」から、交際を申し込む時の昭和ことば。
「今まできみに気づかなかったのはぼくのうかつだった」(木下惠介『お嬢さん乾杯!』)
告白の変化球。あなたの魅力に気づかなかったなんて、ぼくはなんてばかなんだろう。自分を下げれば相手を持ち上げることができる。
「おれは畜生、お前に惚れちまったんだあ!」(中平康『狂った果実』)
粗野だが、心にどかんと響く直球の宣言。
一方、愛の告白をやんわり断る女性側の気遣いも素晴らしいです。
「珍しくお酔いになりましたのね」(山本薩夫『華麗なる一族』)
思い切ったことを告白されてもこう言っておけば、たいがいのことは気まずくならずにさらりと流せる。
「あたしに結婚申し込むなんてそそっかしい方ね、あなた」(増村保造『青空娘』)
自分みたいな人間に、そんな重要なことを言うあなたは「そそっかしい」と言いながら、じつは相手を立てている。気乗りしないプロポーズを、相手を傷つけずに断る便利な言葉。
気乗りしようがしまいが「プロポーズ」をそんなあっさりかわすなんて、同じ女性でも今の時代なら考えられないわ…と思っていたら、こんな言葉も載っていました。
「オールドミスなんかになりたくないもん」(増村保造『最高殊勲夫人』)
オールドミスが飽和状態に達した昨今は死語。
的確な解説です。
著者は、たまたま見た日本映画の会話の美しさ、相手を思いやる機知に富んだ昭和ことばの魅力に強いショックを受け、この本を書いたと言います。「後生ですから」「ごめんなさいよ」「お疲れでございましょう」「おかげさんで」など、ちょっとした温かいひとことを互いにかけあっていた昭和の人々。昭和ことばとは、「高度で複雑なコミュニケーションがくり広げられる現代社会に風穴を開ける知恵」。
ビジネスで、恋愛で、友人や親戚との付き合いに、また暮らしの中に、是非とも取り入れて頂きたい、とすすめる一方、「言葉が火に油を注ぐこともあり得るのでご注意ください。」と読者にしっかり釘を刺す著者のスタンスにとても共感できます。決して昭和を手放しで礼讃しているわけではないのです。職場や家庭でこの本を開いて皆でわいわい盛り上がるのも楽しいでしょう。素敵な一冊です。
今、最も話題になっている「日本語」の本といえばこちら。HONZレビュアー久保洋介さんの素晴らしいレビューがあるので内容の紹介は控えさせて頂きますが、当店でも売れています!主人公二人の辞書編纂の歩みを年表化したパネルを出版社さんが作成して下さったので本の横に置いています。装丁も辞書の装丁に似せてあったりと大変凝っていて感心しきり。また、当店では新学期に向けて辞書フェアも開催中です!
春は新しい出会いの季節。これを機に普段から使っている日本語、言葉についてもう一度じっくり考えてみられてはいかがでしょうか。それでは、昭和ことばで「ごきげんよう」。
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