【連載】『第五の権力 Googleには見えている未来』第1回 世界80億人のほとんどが、オンラインでつながる。2025年、デジタル新時代の到来

2014年3月24日 印刷向け表示
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グーグル会長・エリック・シュミット氏初の著書として全米ベストセラーとなった書籍『第五の権力―Googleには見えている未来』。HONZでも2度にわたりレビューが出たこの書籍の序章を、今日から5回にわたって掲載していきます。
2025年、世界人口80億人のほとんどが、オンラインでつながる「デジタル新時代」において、私たちの暮らし、仕事、社会、政治、国家はどのように変わっていくのか。

第五の権力---Googleには見えている未来

作者:エリック・シュミット、ジャレッド・コーエン
出版社:ダイヤモンド社
発売日:2014-02-21
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自由な表現と自由な情報の流れを可能にする 
新しい力・インターネット

インターネットは、人間がその手でつくっておきながら、まだ十分に理解することができていない、数少ないものの1つである。

もともとインターネットは、部屋いっぱいの大型コンピュータの間でデジタル情報をやりとりする手段として開発されたのだが、いまや生活のあたりまえの一部になり、人間の活力のはけ口と表現の場として、数え切れないほど多くの面をもつようになっている。

インターネットの世界はつかみどころがなく、絶えず変異をくり返し、ますます巨大で複雑になっている。そして、とてつもない善を生み出すとともに、おぞましい悪をもはらんでいる。

インターネットが世界に与えるインパクトは、ようやく目に見えるようになってきたばかりだ。

インターネットは、無政府状態で何が起こるかを知るための、史上最大の実験場である。

現実世界の法律に縛られないオンラインの世界で、今も何十億という人が、毎分毎分膨大なデジタルコンテンツを生み出し、消費している。インターネットを通して、人々は自由に表現を行い、自由に情報をやりとりする新しい力を手に入れ、その力を使って今日の多面的なオンラインの世界を生み出した。
 

世界最大の無法空間インターネット

ちょっと思い返してほしい。

あなたがこれまで訪れたウェブサイトや誰かに送った電子メール、オンラインで目を通した記事、学んだ事実、つきとめたり暴いたりしたつくり話のすべてを。

このプラットフォームを通して培った関係や、立てた旅行の計画、見つけた仕事、生み出し、育み、実現した夢を。それに、上からの統制がないせいではびこっている、オンライン詐欺やネットいじめ、差別扇動集団のウェブサイト、テロリストのチャットルームを。

これらをすべてひっくるめたものが、世界最大の無法空間、インターネットなのだ。

インターネット空間が拡大するとともに、私たちの常識も覆されていく。
日常のささいなことに始まり、アイデンティティ(人格)や人間関係、身の安全はどうなるのかといった、より本質的な問題に至るまで、私たちは今までとまったく違う考え方をもつようになるだろう。

テクノロジーの力によって、地理的な制約や言語の違い、情報不足といった、人間同志のやりとりを長らく阻んでいた「障壁」がとり払われたおかげで、人間の創造力と可能性が今までになく高まっている。

インターネットが広く普及したことで、社会、文化、政治にかつてないほど刺激的な変化が生じている。しかもこれまでの変動期とは違って、まさに地球全体に影響が及んでいる。

これほど多くの場所にいる、これほど多くの人たちが、これほど大きな力を、指先ひとつで使えるようになったのは、有史以来初めてのことだ。技術革命はこれまで何度も起こっているが、誰もがリアルタイムの情報を、誰かに頼らずに、じかに所有、開発、発信できるようになったのは、今回が初めてである。

しかもこの変化は、まだようやく始まったばかりときている。
 

世界人口80億人のほとんどが、オンラインでつながる

情報通信技術は、空前の速さで世界に広がりつつある。

21世紀に入ってからの10年間で、世界のインターネット人口は、3億5000万人から20億人を突破するに至った。同時期の携帯電話契約数は、7億5000万から50億を大きく超えるまでに急増している(現在は60億を超える)。

技術は世界の隅々にまで普及し、普及のペースがなおも加速している地域もある。

これまでリアルな情報を手に入れる手段をほとんどもたなかった世界中の大多数の人が、たったひと世代のうちに、手のひらに収まる端末を使って、世界中の全情報にアクセスできるようになる。

技術イノベーションが今のペースで続けば、2025年には、80億に達すると推定される世界人口のほとんどが、オンラインでつながるだろう。
 

固定電話を知らぬまま いきなりスマホを持つ社会も

社会のどんな階層の人たちも、「コネクティビティ」(ネットワークへの接続性)をますます手軽に使いこなすようになる。誰もが無線インターネット網に、今の数分の1の料金で、いつでもどこでもアクセスできるようになり、より効率的、生産的、創造的な方法で仕事をするだろう。

途上国では、公衆無線ホットスポットと高速ホームネットワークが導入され、今は固定電話すらない場所でも、インターネットを利用できるようになる。

古い技術を飛び越して、いきなり最新技術を導入する社会もあるだろう。

私たちが今すごいと思っているハイテク機器も、ひと昔前のダイヤル式電話機のように、やがては骨董品として蚤の市に並ぶ運命にある。

こうした機器は、広く利用されるうちに、処理速度も処理能力も飛躍的に高まっていく。 
 

世界80億人がオンラインでつながる「デジタル新時代」に何が起こるのか?
第2回はこちら

 

エリック・シュミット(Eric Schmidt)
Google会長。1955年生まれ。2001年から2011年までGoogleの最高経営責任者(CEO)を務め、創設者のサーゲイ・ブリン、ラリー・ペイジとともにGoogleの技術や経営戦略を統括してきた。Google入社以前は、ノベルの会長兼CEOやサン・マイクロシステムズの最高技術責任者(CTO)を務めていた。それ以前は、ゼロックス Palo Alto Research Center(PARC)で研究員を務め、Bell Laboratoriesやザイログに勤務していた。プリンストン大学で電気工学学士号、カリフォルニア大学バークレー校でコンピュータ サイエンスの修士号と博士号を取得している。2006年には、全米工学アカデミーの会員に選出され、2007年には、アメリカ芸術科学アカデミーのフェローに就任。新アメリカ財団の理事会会長のほか、2008年からはプリンストン高等研究所の理事も務めている。

ジャレッド・コーエン(Jared Cohen)
GoogleのシンクタンクGoogle Ideas創設者兼ディレクター。1981年生まれ。史上最年少の24歳で米国国務省の政策企画部スタッフに採用され、2006年から2010年までコンドリーザ・ライス、ヒラリー・クリントン両国務長官の政策アドバイザーを務めていた。現在はCouncil on Foreign Relations(米国外交問題評議会)の非常勤シニア・フェローを務め、National Counterterrorism Center(国家テロ対策センター)所長諮問委員会のメンバーでもある。著書は、『Children of Jihad』『One Hundred Days of Silence』など(いずれも未邦訳)。2013年には、雑誌TIMEによって「世界で最も影響力がある100人」に選ばれた。

【訳者略歴】
櫻井祐子(さくらい・ゆうこ)
幼少期よりヨーロッパやオーストラリアなど、10年以上を海外で過ごす。雙葉学園、京都大学経済学部経済学科卒。大手都市銀行在籍中にオックスフォード大学で経営・哲学修士号を取得。東京在住、一女一男の母。
訳書は、『選択の科学』(文藝春秋)、『イノベーション・オブ・ライフ』(翔泳社)、『100年予測』『エッセンシャル版マイケル・ポーターの競争戦略』(早川書房)、『劣化国家』(東洋経済新報社)など多数。

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