皆様、遅ればせながら、明けましておめでとうございます。
この時期、気持ちを新たに一年の目標を心に決められた方も多いのではないでしょうか。私も個人的な目標を立てました。平凡ですが、「家計を見直す」ことと「英語力アップ!」です。目標達成に向けてモチベーションを上げてくれる本を探していると、色々面白い本に出会いましたのでご紹介させて頂きます。書店員の特権のひとつに、発売前の本の原稿を時々読ませて頂けることがあります。その中からも今月は新刊をご紹介致します。
ちょっとうさんくさいな、と思いながら手に取りました。本を開いて最初に目に飛び込んでくるのは「このレッスンのおかげで人生が変わりました!」という受講生の声の数々…。それでも読んでみようと思ったのは、著者前書きの最初の一言のせい。
「あなたは自分のお財布に入っている1万円札を今、ここで破れますか?」
ええ!絶対に無理!と思いました。そもそも、なぜそんなことを聞くのでしょうか。
この本はいくつかエクササイズを自分でこなしながら次のステップに進むレッスン形式。私もノートを一冊用意して取り組みました。例えば最初のレッスンは「(架空の)3億円の使い道を1分で考える」。必死になって考えました。さらに、次のエクササイズは、今まで生きてきてかかった金額を実際に書き出してみる、というもの。両親が自分にかけてくれた食費や教育費から、自分で買ったお気に入りの洋服まで、思いつく限り全ての金額を書き出すのです。これはなかなかハードであると同時に、深く考えさせられる体験でした。
そうやってレッスンを進めるうちに、自分が「お金」というものに対してどんなイメージや執着を持っているのか、あるいはいかに「お金」から目をそむけて生きてきたか、ということが徐々に腑に落ちて行きます。そして、なぜ1万円札を破ることができないのか、1万円札を破るとはどういうことか、見えてくるのです。「悩みがゼロになる」とは言いませんが、お金に対して新しい見方が生まれることは間違いなしです!!(うさんくさいでしょうか…)
私は学生時代わりと英語が好きだったのですが、この本はすべての「英語嫌い」の方にお届けしたい一冊です。主人公は主婦・みちこさん40歳。英会話を勉強しなおそうと一念発起し、家庭教師の先生にレッスンをつけてもらうことになります。このみちこさんが抱く英文法への疑問の数々(「人称って何?」「aとtheの違いって何?」「単数・複数をなぜそんなに英語は区別するの?」)に対する返答に窮し、苦しめられる先生。
みちこさんが「納得できない!」と思っているポイントを頑張って掘り下げるうちに、先生とみちこさんは思いもかけず母語である日本語を見直すことになり、そもそも「外国語を学ぶとはどういうことか」といった哲学的な問題にまで議論が発展していく展開は意外そのもの。英語が苦手な人にとっては、「そうそう、そういうことが知りたかった!」と思うようなところ、英語が得意な人からすると、「え!そんなこと疑問に思ったことなかったけど、いざ聞かれると説明できない」というところを一つ一つ丁寧に振り返る過程が非常に新鮮です。
ハーバード大学には、EOPプログラムという年間収益が1000万ドルから20億ドルの企業の経営者だけが受講できる「戦略教室」という講座があり、その講座で長年に渡って一流の経営者達を指導してきた著者が講義内容をもとに書いたのがこの『ハーバード戦略教室』です。
世界でトップの教育者が、世界でトップの経営者である生徒達に向かって語りかける言葉は、驚くほどにわかりやすいです。シンプルで、力強い。経営に関する知識のない私でもすらすらと理解できます。そして、著者が生徒達に繰り返し問いかける一つの質問が、やがて私自身の中で何度も繰り返されるようになりました。
「あなたの会社は社会にとって重要な存在ですか?これは、会社のトップなら誰でも答えられなければならない重要な問いである。もしあなたが今、会社を閉じたら、顧客は何か困ることがあるだろうか。彼らはどのくらい不自由な思いをし、その状態はいつまでつづくだろう。代わりとなる会社を見つけることはできるだろうか。」
気づけば、私はこの質問の「あなたの会社」という部分を「あなたという人」という言葉に置き換え、本を夢中になって読み進めていました。そしてIKEAやAppleといった生活上馴染みの深い有名企業が、どのようなモチベーションからどんな目標を立て、それを実現するためにどんな行動を起こして来たかという歴史をわくわくしながら辿っていました。
企業でも個人でも、真に優れた結果を出せる時というのは、他者との比較で「勝った、負けた」という次元でものを考えている時ではなく、「誰が何と言おうと、これは今の自分にしかできない。だから価値がある。」という深い情熱に突き動かされている時。そして、そのような深い情熱から生まれる目標は、容易には揺らがず、困難な道のりを具体的に進んでいく上での唯一の灯台となります。私はこの本に「目標の立て方」を教えられました。なんとなく、とか、みんなやっているから、ではない、自分自身の存在意義にも関わるような目標とは何か。考えることが楽しくなる一冊です。
ここ数年で爆発的に全世界に広まっている、オープンエデュケーションという「ハーバード大学やスタンフォード大学の講座を始め、一流の教育をオンラインで無料提供する」動きを、朝日新聞の教育記事担当の著者が全世界を取材して書いた渾身のルポ。世界中のどこでも、誰でも、インターネットにさえつながれば、世界最高水準の教育を無料で受けることができるという、グーテンベルクによる印刷革命以来の大激震が教育界に走っている様子が、興奮と共に伝えられます。
この本が衝撃的なのは、私でも、その気にさえなれば、今すぐ、明日からでも、電車での通勤時間を利用してスマートフォンで「留学」できてしまう、という事実に気づかされること。お金がなくても(何せ無料です)、学校に行くまとまった時間がなくても、オンラインで毎日各国の一流大学の講義を聞き、課題を提出し、世界中から参加している他の受講生とネットの掲示板を通じて議論し、試験を受け、パスすれば修了証をもらえる可能性が開かれているということです。つくづくすごい時代に生きているのだなと思いました。
著者はオープンエデュケーションの負の部分にもきちんと目を向けながら、それでも世界各国でこれまで良質の教育を受ける機会に恵まれなかった人達がどれほど歓喜し、一人一人がどれほど日々希望に満ちてそれぞれの学びを楽しんでいるかを生き生きとレポートしています。学ぶということについて意識を刷新させられ、胸が熱くなる、刺激的なノンフィクションです。
1986年生まれ。関西育ち、京都在住。気がつけば本屋の上に住み、職場も本屋。文芸書担当。好きな本のジャンルは海外文学。
【ジュンク堂書店大阪本店】
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