華道草月流をご存知だろうか。華道といえば、15世紀京都六角堂の僧侶池坊専慶を祖とする池坊(いけのぼう)が一般に有名だが、草月流は20世紀に入って勅使河原蒼風によって創設された新しい華道である。勅使河原蒼風は「花のピカソ」とも呼ばれ、サルバドール・ダリなどとも親交があった。本拠地は赤坂の草月会館だが、設計は丹下健三、石庭はイサム・ノグチの作品だ。草月流は自由にして前衛的。池坊は床の間や茶道のイメージなのだが、草月流はホテルのロビーを飾る巨大フラワーアートのそれだ。
個性を尊重し、「型」にとらわれることなく自由な表現を求める草月のいけばなは、ご家庭で楽しむことはもちろん、ウインドーディスプレーや舞台美術など、あらゆる空間に美と安らぎをもたらしています。
とは草月流のホームページにある説明だ。前置きが長くなった。本書はその自由にして前衛的な草月流をエチオピアで実践している少数民族の写真集だ。もちろん本当に草月流を学んだわけではない、彼らは長い民族の歴史のなかで驚くべきフラワーアートを自ら育んでいたのだ。信じられないほど自由にして、創造的であり、独創に溢れ、すばらしい色彩感覚を持っている。
美術ファン必携の一冊だといっても良いかもしれない。アートディレクターであれば、まさにウインドーディスプレーや舞台美術を創りだすときなどに非常に参考になるだろう。ファッションデザイナーも目を通しておくべき本だ。プリント柄やテクスチャーのアイディアのもとになるであろう。本書については言葉は不要だ。収録されている160点の写真のごく一部をご覧いただきたい。実際はもっと素晴らしい写真が多数あるのだが、それは書店店頭で本書を手にとってのお楽しみに残しておきたい。