賞を取るような立派な金魚も、少しブチの多い金魚も、みんなかわいい、愛すべき存在です。
別に私は池田書店の回し者ではないのだが、『日本のお守り』に引き続き、まんまと本書にも当てられてしまった。この上質紙のせいなのだろうか。本の作り手や登場人物の金魚に対する愛情やぬくもりが、紙の感触を通じてこちらにも伝わってくるようだ。丁寧な作りの本の佇まいは、書店の棚にあっても独特の存在感を醸し出しており、思わず手に取ってしまった次第だ。
もちろん、紙質ばかりが本書の魅力ではなく、見応え・読み応えも十分。中国から日本に金魚が渡ってきてから500年あまり。もとは和金1品種から誕生した金魚も、いまや30種類を超えようとしている。その各品種について、由来・体の特徴・飼育のポイント・魅力と楽しみ方を、全ページにわたりカラー写真をふんだんに用いて解説している。スラッと伸びた体型がアメリカ生まれの雰囲気を醸すコメット、上目遣いに愛嬌のある頂天眼、コロコロと転がっていきそうな体型のピンポンパール、優雅で艶やかな容姿がいかにもセレブ受けしそうな蝶尾など、個性派揃いの金魚たちのオンパレードである。
その写真にも、著者の「水槽から出てきて自由に泳ぎ回っている金魚がイメージできる図鑑を作りたい」というコンセプトによるこだわりが見られる。通常の図鑑であれば、紹介のため品種ごとの完成した素晴らしい親の個体を取り上げることが多い。しかし本書では、あえて当歳(その年生まれ)でまだ正体を現していない未完成の金魚や、スタンダードを外れお徳用と銘打った金魚にもスポットを当てることで、特上品にこだわらずに金魚選びの奥深さ・楽しさに触れられるよう配慮されている。
「第三章 金魚の科学」も一読の価値あり。ややお勉強モードに筆致を切り替え、金魚の体のメカニズムがコンパクトにまとめられている。身体面で言えば、金魚の嗅覚は人間の百万倍といわれる犬に匹敵し、音にも敏感で良感度の領域は100~1000ヘルツと人間並みであるなど、愛嬌のある見た目でありながら、結構しっかりとした作りであることが分かる。
また、調子の悪い金魚には塩水浴のススメ。普段は真水の中にいる金魚には浸透圧で体内に常に周囲の水が侵入しており、金魚は体の外に余分な水を常に汲み出している。そこで、調子の悪い金魚を体液の塩分濃度に近い0.5%の塩水に入れることで、体に入る水の量を減らし体力温存を図ってやることが出来る。さらに、塩水浴はカラムナリス菌による病気や寄生虫にも治療効果があるという。この塩水浴、さしずめ金魚にとっては湯治といったところだろう。
この他、本書には金魚の本場・愛知県弥富町の競市場や養魚場の様子を描いたコラム、生物部にて金魚飼育に取り組む高校生の部活動特集や、自宅を改造し昼夜を問わず金魚に向き合うベテラン愛好家の飼育レポートなどもちりばめられ、この一冊にあふれんばかりの「金魚愛」がぎっしり詰まっている。暑苦しいようでいて、写真に見る色とりどりの金魚たちが尾ひれをフリフリたゆたわせながら水槽や生簀を泳ぐ様は、見た目にも涼しく風流だ。本書を片手に、この夏は金魚と戯れるべし!