アルフレッド・アドラーという人物を知っているだろうか?私はこの本を読むまでまったく知らなかった。どうやらフロイト、ユングと並び「心理学の三大巨頭」と称されている人物らしい。個人心理学(アドラー心理学)というものを創始した人だという。ただフロイトやユングに比べるとアドラーというのはマイナーな感が否めない。試しにグーグルで検索をしてみたらアドラーが約27万件に対して、フロイト137万件、ユング146万件と、やはり二人に比べると知名度ではかなり劣るようだ。
しかし、世界的にみると、心理学の世界でアドラーというのはとても有名らしい。デール・カーネギーの『人を動かす』や『道は開ける』。スティーブン・コヴィーの『7つの習慣』といった自己啓発の名著にもアドラーの思想が色濃く反映されているそうだ。そういう意味では自己啓発書の元祖の元祖と言ってもいいのかもしれない。
アドラーの思想は、ものすごく刺激的でおもしろい。この考え方を受け入れることで、いまより世界が生きやすいものに変わるという人も多そうだ。アドラーの思想には「人間の悩みは、すべて対人関係の悩みである」という考え方が根底にある。人と比べるから劣等感を感じるし、他者がいるから孤独を感じるのだ。クリスマスが近づいて、やたらとカップルたちが目につくのと、独り身だとなんだか劣等感を感じてしまうのも、他者が存在するからなのである。
アドラーの思想を受け容れると、そういった対人関係の悩みは一気に解決するかもしれない。かくいう私も、そう考えればよかったのか!と、なんだかとても気が楽になった。またこの思想を受け容れることで、これから自分の人生が変わっていくという確信がある。私だけではない、たくさんの人の人生をもきっと変えることになるだろう。それほど素晴らしい本なのである。
ただこの思想は、人の顔をみて行動したり、空気を読むことに長けた多くの日本人には、刺激が強すぎるかもしれない。「自由とは、他者から嫌われることである」といわれても、すんなりと受け入れられる人は少ないだろう。またアドラー心理学では「他者から承認を求めることを否定する」。承認欲求というのは人間の普遍的な欲求であり、行動原理のひとつだと思っている人も多いだろう。仕事でも何でも人に認められたいと思うのは人として当たり前のことだ。
しかしアドラーは「他者の期待など、満たす必要はない!」と言っている。なぜなら、われわれは他者の期待に答えるために生きているのではないからだ。他者の期待に応えることを続けていくと、他者の人生を生きることになってしまう。自分の人生を生きるためには、他者の期待に答える必要はないのだ。逆に他者に対しても、期待をしてはいけない。とはいってもみな自分勝手に行動しろという話ではない。
そこで考えなくてはいけないのが、「課題の分離」というものだ。ある出来事に対して、これは誰の課題なのか?ということを考えるのだ。それがもし相手の課題であるならば、そこにはいっさい踏み込んではいけない。手助けはしても強制をすることはできない。最後に決断をするかどうかは相手が決めることだからだ。人を変えることはできない。結局自分を変えることができるのは自分だけである。
“他者の課題には介入せず、自分の課題には誰ひとりとして介入させない。”
この考え方を受け入れると、対人関係の悩みは一気に解消するはずだ。また自分の人生を生きるためには、この考え方がとても重要である。さらに対人関係のカードは常に自分にある。そう思えば気分は楽になるだろう。
さて「自由とは、他者から嫌われることである」という話に戻ろう。自由に生きるためには、他者の評価を気にかけず、他者から嫌われることを怖れてはいけない。そこで勇気が必要となる。アドラー心理学は勇気の心理学とも呼ばれているそうだ。嫌われることを怖れない勇気。それこそがこの本のタイトルの意味である。
“私が変われば、世界が変わる。わたし以外の誰も世界を変えてくれない……。”
人生を一変させる新しい古典、アドラー心理学を知り、自分の人生を歩むための一歩をぜひこの本とともに踏みだしてもらいたい。
『人を動かす』や『7つの習慣』といった自己啓発の定番書同様に、長く読み継がれてほしいと思う自己啓発書の名著。この本の根底にもアドラー心理学の思想が流れている気がする。