昨年春に起こった「亀岡市登校中児童ら交通事故死事件」を始めとして、今年9月に起こった「京都・八幡の登校中の小学生の列に車で突っ込み5人重軽傷を出した18歳少年の事件」など無謀運転で犠牲者が出るたびに大きな憤りを感じる。免許を取って30年以上、事故ったことが無いわけではないが、遊び半分に暴走したことなど一度もない。若さはバカさであるけれど、取り返しのつかない過ちをどう償うと言うのだろう。事故後の裁判など、経過を知るたびに無力感を感じてしまう。
本書は2010年12月26日、午後9時45分に東京都大田区の中原海道で起こった交通事故の状況と、その後の顛末が描かれている。祖父母と幼い孫、そしてペットの犬マイちゃんが横断歩道の信号待ちをしているところに、ハンドル操作を誤った少年の車が突っ込み、子供二人の命を奪った。親から離れ、従弟同士でおじいさん、おばあさんの家に泊りがけで遊びに来た日の悲劇だった。
子どもたちふたりは柴犬のマイちゃんが大好きで、会いに来るのを楽しみにしていた。だから一緒に散歩に行くのが、楽しくてたまらなかったに違いない。事故にあう3か月前の敬老の日、おじいちゃんとおばあちゃんへのプレゼントは柴犬のキャラクターの携帯ストラップだったほど、みんなで可愛がっていたのだ。その日も、マイちゃんと思いっきり遊んだに違いない。
犯人は20歳の青年だった。ラップ音楽に合わせてジグザグ運転をし、そのまま歩道にいた4人に衝突して止まった。極めて危険で悪質な運転ということで「危険運転致死傷罪」に当たると検察庁は判断。中原海道の制限速度が50キロであることも知らず、普段は制限速度など気にしたこともなかったと供述している。友だちと遊び、気分が盛り上がった犯人は、ラップミュージックに合わせて、パーカッションのようにクラクションを鳴らし続けていたという。後ろをバイクで走っていた男性は、ふらふらしたふざけた運転をみて、事故に巻き込まれたくないと証言している。
当初、自分の過ちを素直に認めていた犯人だが、裁判になると態度を変えた。警察や検察での供述内容を、強要されて認めたものだと言い出したのだ。そのくせ、蛇行運転や無理な進路変更については「おぼえていない」をくりかえす。
九死に一生を得た祖父母は、孫たちを守りきれなかったことを悔やみ、精神に変調をきたすまで憔悴した。子どもを殺された両親は毅然と裁判で証言した。誰もが「危険障害致死傷罪」であると確信していた。しかし…
事故後、一時行方不明になっていたマイちゃんは、無事保護され祖父母の心の支えとなる。交通事故の罪は、以前より重くなっていると言いながら、遺族の納得のできる判決は少ないようだ。本書の著者は自動車事故に関するノンフィクションを、多数執筆している専門の作家であり、本書は小学生から読めるように書かれている。昨日まで一緒にお遊んでいた友だちが交通事故でいなくなってしまう。そんな悲しみを少しでも無くすために、幼いころから交通安全教育は必要であると思う。
本書の発売に際し、孫を無くされたご夫妻のインタビューが公開された。非常に胸が痛い。
[youtube]http://www.youtube.com/watch?v=m7hm0ilP1G0[/youtube]
『柴犬マイちゃんへの手紙』で取り上げたご遺族が、事故からまもなく3年目を迎える今日(12月16日)民事裁判に提訴する。刑事裁判では認められなかった「危険運転」は果たしてどうなるか、注目される。ニュースはこちら。
何も悪いことはしていないのに、命を奪われた幼い子供たちの冥福を心からお祈りしたい。
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私が柳原三佳という作家を知ったのはこの本だ。レビューはこちら。東海テレビの交通安全キャンペーン広告の洗濯物編は、本書の内容から作られたもの。
[youtube]http://www.youtube.com/watch?v=rvU0TWDcSUc[/youtube]