『リーマン予想』をご存知だろうか?現在の数学界の「聖杯」と言っていい難問だ。
リーマン予想は、素数の分布に関する予想だ。「素数」は、「1とそれ自身以外の数では割り切れない数」のこと。数学界においては非常に重要で、あらゆる研究がなされているものの、その正体がきちんとは掴めない、なかなか厄介な奴だ。
『リーマン予想』は、『フェルマーの最終定理』ほど簡単には理解できない(僕もちゃんとは理解していない)。しかし『リーマン予想』は『フェルマーの最終定理』よりも遥かに重要な問題だ。数学の世界には、「もしリーマン予想が正しければ…」で始まる論文が山のように存在する。『リーマン予想』の解決は、数学の世界を一気に前進させることになる。
その非常に難解な『リーマン予想』の世界を、難易度を下げずに、それでいて可能な限り分かりやすく説明したのが本書だ。また本書は、『リーマン予想』の系譜を描き出すことで、過去の偉大なる数学者の歴史を追う作品でもある。
『フェルマーの最終定理』であれば、サイモン・シンの「フェルマーの最終定理」が、『ポアンカレ予想』であれば、マーシャ・ガッセンの「完全なる証明」がオススメ。そして『リーマン予想』であれば本書をオススメする。確かに難しい部分もあるが、数学の奥深さと美しさを、是非体感して欲しい。※この本の「解説」はこちら
『変な人』というのは、僕にとっての最高の褒め言葉だ。そう言ってもらえることもあるが、世の中の様々な「変人」を知ってしまうと、自分なんかとてもとても、と思う。
大家族に生まれた小学三年生の渦原琴子(通称「こっこ」)も、人と違うことに憧れる。孤独を愛し、他人からどう見られようと気にしない。母親に、弟か妹が出来ると言われたこっこは、祖母に、「弟か妹出来てもな、こっこが可愛いのんは、変わらんのやで」と言われ、内心こう反論する。
『ちがう!そんなことはどうでもいいのだ。弟や妹に嫉妬をしているのではない。ただ、家族が増えることは、手放しで喜ぶべきことである、という、決められた反応が気色悪いのだ。』
素晴らしいよ、こっこ。おじさんも、まさにそういうことを考えながら、毎日生きてるよ。小学生の頃、こっこみたいにいられたら良かったなぁ。出来たら今すぐおじさんと友だちになってくれ。って言っても、こっこのお眼鏡に適う「変人」じゃないかもしれないけどさ。
どうかこっこよ。今のこっこのまま、大人になってくれ。頼む。
なかなか凄いタイトルだ。どんな本だと思うだろうか。
500ページを超える本書には、様々な側面があり、一概に「こういう本です」と言えない。が、個人的に推したいのは、冒頭の3章ほどで描かれる「著者が学生たちに向けた言葉」だ。この部分を読めば、「働く」とは、「学ぶ」とは、そして「社会に出る」とはどういうことかなど、様々な深い示唆を得ることが出来る。
『単純な仕事を単純にしかこなせない人は、いつまで経っても単純な仕事しか与えられません。「コピー上級」の人になれば、会社は、こんな人にコピーを取らせ続けるのは失礼だし、もったいないと逆に思い始めます。そのようにして、コピー上級の人は”出世”していくわけです』
冒頭3章では主に、専門学校の校長時代に入学式や卒業式で述べたことをまとめたものが描かれる。学生時代、こんな言葉に出会っていたら、もっと生き方が変わっていたかもしれない。また後半の哲学的考察には、頭がジンジン痺れてくるほどの知的充足感を覚える。
べらぼうに面白い物語だった。一般市民にはまったく馴染みのない舞台設定で、これほど面白い作品を生み出せるとは。
主人公の正人には、子供の頃からの夢がある。400年ほど前に正人の祖先・興田正五郎が操舵していたという、スペインのガレオン船を見つけ出すことだ。
ひょんなことから、その在処を知った正人は、大学時代の恩師とともにヨットで現場の確認に向かう。しかし時を同じくして、国際的なトレジャーハンター会社が同じターゲットを目標に動き出したようで…。
水中考古学者とトレジャーハンターの対立構造は根が深い。金銭目的のトレジャーハンターは、「我々が引き揚げなかったら永遠に水中に没したままだったかもしれない海底遺産を人の目に触れるようにすることができる」と主張する。しかし、金はないが使命感はある水中考古学者は、「泥棒に蹂躙されるぐらいなら、そのまま海底に没して陽の目を見ない方がマシだ」と考えている。
通常であれば勝ち目のない正人ら水中考古学者チームだが、様々な偶然と奇跡的な条件が重なって、トレジャーハンター会社と互角の戦いを展開する。両者の対立以外にも、様々な要素や展開を組み合わせて、これでもかというくらい物語を盛り上げる。笹本稜平氏の作品では、エベレストでの極限状況を描いた「天空への回廊」も大好きだ。両者とも、壮大なスケールと圧倒的な展開で見事に読ませる、実に骨太の作品である。
実に良い小説を読んだ。
高校時代のラグビー部の先輩が、ヤクザの事務所でマシンガンをぶっ放して亡くなった。ギャグみたいなその死に方は、正直先輩らしい。
ラグビー部の面々と距離を置き続け、葬儀のために15年ぶりにみんなと再会する主人公の沢木は、フリーライターから小説家に転身していた。しかしそれは、沢木が追い詰めたある少女の死の上に成り立っているもので、その後悔と自責の念は沢木の元から離れようとしない。
先輩の襲撃事件に共犯者がいたという報道がされると、にわかに沢木の周辺が慌ただしくなっていき…。
先輩の死、沢木の後悔、ラグビー部の面々の近況や変化、ヤクザの動き。これらが実に繊細に絡み合って、一つの大きな物語を生み出す過程が見事だ。しかも、慎重に撚り合わされた糸を解きほぐすようにして少しずつ謎が明かされ、あちこち駆けまわることになる沢木自身の生き様も問われ続ける。
沢木を中心とした人間関係の葛藤や苦味みたいなものが僕は一番好きだ。沢木の考え方や生き方に、どことなく似たものを感じるせいもあるだろう。15年という長いブランクを持つ沢木が、かつての仲間と関わることで、何に気づき、何を諭され、どう変化していくのか。
高校時代のラグビー部という、とても狭いはずの人間関係の話が、ヤクザや犯罪と言った広い世界に直結していくストーリーの妙と、テーマや人間関係だけ見ればどことなく重く苦味を感じさせるものなのに、全体の雰囲気は何故か爽やかな青春小説を思わせる描写の巧さが魅力の作品だ。ホント、良い小説を読んだなと思う。
長江 貴士
1983年、今や世界遺産となった富士山の割と近くで生まれる。毎日どデカい富士山を見ながら学校に通っていたので、富士山を見ても何の感慨も湧かない。「富士宮やきそば」で有名な富士宮も近いのだけど、上京する前は「富士宮やきそば」の存在を知らなかった。
一度行っただけだけど、福島県二本松市東和地区がとても素晴らしいところで、また行きたい。他に行きたいところは、島根県の海士町と、兵庫県の家島。
中原ブックランドTSUTAYA小杉店で文庫と新書を担当。
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