DeNA創業者の南場智子、IBMを再建させたルイス・ガースナー、フェイスブックCOOのシェリル・サンドバーグ。偉大な経営者として知られる彼、彼女らは、アメリカ発祥のコンサルティングファーム、マッキンゼー・アンド・カンパニーの出身者である。「CEO製造工場」と呼ばれるほど多くの元マッキンゼーが、経営者として大企業の舵を取っている。事実、2008年の『USAトゥデイ』によると、マッキンゼー社員が公開会社のCEOになる確率は2位に大差をつけての世界一だという。
書店のビジネス書コーナーには、「マッキンゼー流」「マッキンゼー式」というタイトルがあふれ、日本でも多くのビジネスマンがその経営戦略の極意に触れようとしている。オバマ政権にも元マッキンゼーのスタッフが多数いることからも、マッキンゼーの影響力はビジネス界にとどまるものではないことがうかがえる。将来の成功を約束してくれるだろう「マッキンゼー」の名前を履歴書に書き込み、輝かしいアラムナイ(同窓生)のネットワークに入るために、東大やハーバード出身の世界中のベストアンドブライテストが、狭き門に殺到し続けている。
これほど広く、世界に影響を与えているマッキンゼーだが、その内情は長く秘密のベールに包まれてきた。2008年時点で1万5000人以上の社員を抱え、60億ドル以上を売り上げるまでに巨大化していたこの企業が謎を謎のままにし続けることができたのには、さまざまな理由がある。マッキンゼー自身がその成果を喧伝することなく、助言の末の成功も失敗もあくまでクライアントのものであるという姿勢を貫いてきたことも、その理由の1つだ。
マッキンゼーはどのように考え、社会を動かしてきたのか。ベストアンドブライテストたちが生み出してきたものは、世界にどのような価値をもたらしたのか。ジャーナリストである著者は、1889年の創始者ジェームズ・O・マッキンゼーの誕生から、その成長の軌跡をたどっていく。そして、多くのマッキンゼー内外関係者へのインタビューと様々な文献を組み合わせることで、秘密のベールは1枚ずつ剥がされていく。マッキンゼーの歴史をアメリカ資本主義の発展と衰退に重ね合わせることで、私企業の詳細な沿革以上のものを描き出すことに成功している。
マッキンゼーがクライアントと取り組んできたものは、20世紀のコーポレート・アメリカが直面した課題に他ならない。企業の巨大化・複合化がもたらす組織の非効率、国内市場の飽和による成長の鈍化、IT革命による競争ルールの激変。マッキンゼーの成功と挫折を追えば、アメリカの資本主義がどのように進化し、世界を席巻してきたのかを概観できる。またそれは、「経営コンサルタント」という新たな職業が生まれ、「コンサルティングビジネス」が1つの産業として確立していく過程でもある。本書は英語版との世界同時発売のため、元最高経営責任者によるインサイダー事件など最新のトピックまで盛り込まれている。
ジェームズ・O・マッキンゼーが誕生した19世紀終わりから20世紀に向けて、アメリカは農耕社会から工業国へと大きな変革のときを迎えていた。1913年には大英帝国をも抜き去り、世界一の工業大国として莫大な利益を得た企業郡は、合併によって更に巨大化していった。しかし、顔も知らない社員の方が多いような組織で、把握しきれないほど多数の商品を、行ったこともない土地へ販売するような組織を経営したことのある人間などいなかった。そして、「巨大企業の適切な組織の運営方法」に対するニーズが生まれた。ボストン・コンサルティング・グループとの競争や、不況の波にもまれながらも順調に拡大し、『エクセレント・カンパニー』のトム・ピーターズやエンペラー大前研一など、ビジネス界のスーパースターも生み出していく。著者は、彼らの素顔にも迫っている。
マッキンゼーの歴史は、成功だけに彩られてきたわけではない。世間の批判を浴びることとなった失敗もまた多い。行き過ぎたリストラの推進、サブプライムローンの破綻などの裏でも彼らは重要な役割を果たしてきた。なかでも、不正会計で破綻したエンロンとの深い関わりは見過ごせない。18年間もエンロン経営の中枢にい続けたマッキンゼーに、不正に対する責任はないのか。スキャンダル発覚後、当時のマネージングディレクターはこう言い放った。
クライアントに戦略を助言するだけだ。起こした行動の責任は彼らにある
ITの急速な普及もまた、マッキンゼーにとっては向かい風だった。グーグル、アップルなど現代の最先端をひた走る革新的企業の飛躍に、彼らの助言は必要とされなかった。その焦りからか、技術コンサルティング会社の買収という悪手も打っている。秘密が秘密であり続けられる時代は終わりが近づいている。今ではそのアルムナイだけでも2万3000人以上を数える。グローバル化の進展やインターネットの発達によって、事業環境変化のスピードは加速度的に増しており、華麗に練り上げられた戦略よりも、素早く徹底した実行が求められる分野が増加している。マッキンゼーは、コンサルティング業界はこれからどう変化していくのか。彼らが助言を与える企業は、これから何を考え、どう実行していくのか。未来への展望が見えてくる。
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マッキンゼーと言えばこの人を思い浮かべる人も多いだろう。『マッキンゼー』に登場する唯一の日本人である大前氏による、古典的名著。マッキンゼー入社からわずか3年、32歳のときにこの本を書いたというのだから驚くほかない。Kindleのみの新装版も出ている。
ベストアンドブライテスト達はどのようにふるいにかけられているのか。日本のマッキンゼーで10年以上人事マネージャーを務めた著者による、採用の実態が描かれる。地頭、ロジカルシンキングだけではない、リーダー論にも議論が及ぶ。
マッキンゼー出身のガースナーが、不調となった巨像を生き返らせた手法とは。経営の現場の苦悩と喜びが、生々しく描き出される。
『マッキンゼー』でも度々引用されている、コンサルティング業界の起こりをボストン・コンサルティング・グループのブルース・ヘンダーソンを中心において描き出す。あの世界一有名なフレームワーク、PPMマトリクスはどのような目的で、どのように考えだされたのかにつても詳しい解説がされている。