家族の理想は?と考えると、両親と子供二人、出来ればお姉ちゃんと弟という構成が頭に浮かぶ。多分、小さいころから刷り込まれた“一姫二太郎”が色濃く残っているのだろう。『サッカーデイズ』はまさに私の中では典型的な家族が、サッカーとともに笑って泣いた2年間の日常記だ。自分が子どもを持たなかったからか、少し羨ましくお伽噺を読むみたいな気持ちを味わいながら読み終わった。
「お父さんコーチ」と言うのだそうだ。サッカーや野球、あるいはラグビーなどチームで戦う競技では、選手の父親がコーチを務めることは少なくない。そういう人たちのことである。
サッカーは見るのもやるのも大好きだが、教えることなんて考えてもいなかった杉江由次が少女サッカーチーム「FCスマイルズ」のコーチになったのは、所属する娘が小学4年の時だった。
ただボールを追いかけるのが楽しい幼い子どもたちに、ポジションを指示し、ゲームとして成立させるのは一苦労である。それだけではない。頭を悩ませるのは指導者不足と審判の準備。どちらもいなければ試合や練習ができないのに成り手が少なく、引き受けようものならほとんどの休日が費やされてしまう。
資金繰りも大変だ。子どもたちが最優先になるためお父さんコーチはボランティアである。よっぽど好きでなくては務まらない。それなのに、保護者は言いたい放題。自分の子どもがレギュラーになれないと、怒鳴り声をあげて抗議をする父親。それに巻き込まれる他の父兄。責任を取って娘ともどもチームを辞めるお父さんコーチ。仕事でない分、よけいに気を遣い、やるせない思いをする。
選手は依怙贔屓せず、みんな同じように指導する、と決めても、自分の娘には「もっと強くなってほしい」と辛く当たる。娘は娘で、コーチの父親には甘えないように、と自分を律している。健気だ。
諸般の事情からチーフコーチを受けざるを得なくなった杉江は、手探りで選手たちに向き合う。やがてつけられたあだ名が「カッパコーチ」。ダンゴのように転がるだけのサッカーから、ゲームが出来るチームになるころ、お父さんコーチはそれなりにコーチらしくなっていく。
上達していく娘と裏腹に、一年生の弟はいまひとつやる気がない。練習に行ったらポイントひとつ、15ポイント溜まったらおもちゃを買ってもらえるというカードを作り、何とか気を引いている状態だ。
ある日のミニゲームのあと、チャイルドシートに乗せて自転車を漕いで帰る道すがら、
「なんかさ、ボールにさわるとウキウキしちゃうね」(中略)
「ぼくね、サッカーのココロになったんだよ」
「サッカーの心?」
「そうだよ。グランドにいるときはサッカーのことだけ考えるようになったんだ」
「そうなのか」
「うん、お家に帰ったらおもちゃのココロだけどね」
その日、ポイントをふたつ押してやった父親のココロ……
U―12ともなると、ポジション争いも厳しくなり、勝ち進めば県大会、関東大会と大舞台に立つことになる。明らかに天才と思えるような子もいれば、レギュラーギリギリの子もいる。コーチとしてはみんなを試合に出したいし、勝ちあがりたい。そのジレンマがビンビン伝わってくる。
PK戦で勝利した後の子どもたちの歓喜は、ワールドカップで優勝したなでしこジャパンの選手たちとダブる。私の気分もまさに佐々木監督。杉江の指導している子供たちの中から将来の日本代表が出るかもしれないのだ。
杉江一家の『サッカーデイズ』はさらに続く。お父さんは浦和レッズの試合に一喜一憂し、これからもずっとサッカーを楽しんでいくのだろう。
本書には、杉江の子ども時代の思い出が随所に出てくる。たまたま目にしたお兄さんのブログ がステキだったので、最後に紹介したい。著者の了解は取ったのだけど、大丈夫でしょうか、お兄さん?
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キングカズの父親はこんな人だった!栗下直也のレビューもどうぞ。
「全国高校サッカー選手権大会」で負けてしまった直後の監督たちの言葉。深津晋一郎のレビューが熱い。
「マイナーサッカー国のガイド」という一面が面白い。栗下直也がサッカー部だったというのにも驚いた。レビューはこちら。