山本耀司といえば、コムデギャルソンの川久保玲と並び、日本を代表するデザイナーの一人である。80年初頭にパリコレに進出し、黒を基調としたボロルックで、「黒の衝撃」と呼ばれているセンセーションをファッションの世界で巻き起こした。
それから30年以上が経過しているが、彼らを超える日本人のデザイナーは誕生していない。山本耀司はいまもパリコレの第一線で活躍しており、マエストロ(巨匠)と呼ばれるようになっている。黒を基調とするエレガントなデザインはいまだ健在で、レディースのコレクションはいつみてもほんとうに美しい。
そんな山本耀司が生い立ちから現在に至るまでのことを語ったのが『服を作る』である。ファッションが好きな人は必見だ。山本耀司が創りだす美の原点を知ることができる。子供のときに書いていた漫画(手塚治虫風のタッチでこれがめちゃめちゃうまい)や、本人の描いたデザイン画(これがまた、ため息がでるほど美しい!)などが収録されている。またコレクションの写真を眺めるだけでも楽しいはずだ。
交友関係の話も興味深い。映画監督の北野武やヴィム・ヴェンダース、そしてダンサーのピナ・バウシュなどとの交流についての話がある。北野武の映画では何度か衣装を手がけている。印象深いのは『dolls』の衣装で、菅野美穂が着ていた赤い服はいまも眼の奥に焼き付いている。
さて、本の中身の話をしよう。山本耀司を語る上で重要なのは女性観である。「幼い頃から、女の人を通して世の中を見続けてきました。」と彼はいう。「女性が無理をしなければならないような不条理な社会を作った男性は、みんな敵になったんです。」これが彼の女性観の原点なのだろう。
彼はハイヒールというものをファッションでは使っていないそうだ。かかとのない靴で自然に歩いたほうが、女性は綺麗にみえるというのが彼の主張だ。確かにヒールの高い靴を履いていて、歩き方が美しくない人を見かけると、なにか勿体ないなぁと私も思ってしまう。
また母親からの影響も大きいという。母親が一番のファム・ファタルだったと山本耀司はいっている。
母親から溺愛された。溺愛というのは一種の虐待に近いのです。
これは本書の中でも特に印象的な言葉である。この部分だけを抜粋すると、少し違った意味で取られかねないが、山本耀司は母親が嫌いなわけではない。母親なしにはここまでやってこれなかったと言っている。ただ97歳にして「私はあなただけが生きがいなんだからね」と言われるのはやばいと。女は言っちゃいけないことをいっぱい言う、と。
母親のためにいつまでも頑張らなくちゃいけないという思いが重荷であると同時に、いままで支えてくれた人がいなくなったらどうなるのかわからない。と言ったアンビバレントな思いが山本耀司のなかにはあるようだ。
山本耀司が服を作る際に重視しているものに、後ろ姿というものがある。面影や、通り過ぎていく、もしくは去っていくものの美しさを大事にしているそうだ。服を背中からつくれという話にはさすがに驚いた。立ち去ろうとする女性の後姿ほど美しいものはない。追いかけてもどうにもならない、女性にはかなわない、こういった思いが彼の中にはある。それらも全て猛烈に働いていた母親の姿からきているのだろう。
山本耀司のデザインは圧倒的にレディースが美しい。そこには彼の女性観というものが大いに反映されているからであろう。母親からの影響がふんだんに盛り込まれているのは言うまでもない。マエストロと呼ばれるようになったいまも、色々とチャレンジを続ける山本耀司にはこれからも注目をしていきたいとこの本を読んで大いに思った。
最後に巻末の100の質問から、服と性に関係はあるか?という質問の答えを引用してレビューを終えたいと思う。
ものすごく関係あると思いますね。僕がずっとやり続けてきたのは「できるだけ隠せ」ということ。(中略)隠せば、隠すほど「中はどうなっているんだろう」とイマジネーションがかき立てられる。
この考え方には私も全面的に賛成する。露出の激しい服は目のやり場に困るのだ。これから暑くなってくるので、女性には山本耀司のこの言葉をぜひ参考にしてエレガントでいていただきたい。笑
こちらも山本耀司が自らのことを綴った本。より思想的な部分が多いので、深く山本耀司のことをしることができるだろう。
ヴィム・ヴェンダースがコレクション直前の山本耀司を撮ったドキュメンタリー映画のDVD。『服を作る』の中でも出てくる。
山本耀司が衣装を手がけた映画。菅野美穂の着ている服がどれも美しい!