『本当は怖い動物の子育て』涙腺崩壊

2013年6月10日 印刷向け表示
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本当は怖い動物の子育て (新潮新書)

作者:竹内 久美子
出版社:新潮社
発売日:2013-03-15
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テレビはほとんど見ないのだが、NHKで日曜夜7時30分から放送中の「ダーウィンが来た!」だけは見てしまう。そのために受信料を払っているようなものかもしれない。ほのぼのとした気持ちになりたいなど老化のあらわれだろうが、ほぼ毎週見ている。昨日(9日)のタイトルは「アザラシ母さん、愛の猛特訓」。タイトルだけで涙腺が刺激されまくりである。テレビでこのような状態なのだから、本屋に行くと最近は大変だ。先日も写真集コーナーで動物の写真を眺めて、ニヤニヤしている自分がいた。人間の裸体以外の写真でニヤつく日がまさか来るとは夢にも思わなかったが、その際、本屋を回遊していて、思わずタイトル買いしたのが本書だ。

パンダはよく双子を生むが体の大きいほうだけを育てて、もう一方を見殺しにする。サルの一種のハヌマンラングールは群れのボスになると、自分の血が流れていない乳飲み子を殺す。メスに早く自分の子を生ませるためだ。タスマニアデビルは20-40頭の子を産むが、乳首の数は4つ。体力と気力に優れた「先着4名」以外は飢えて死ぬ。いかに自分の遺伝子のコピーを残すかだけに忠実な動物の子育てを海外の学説を中心にこれでもかと紹介している。みんなの人気者であるパンダもクマもラッコも正視できなくなる怖さである。

著者は動物行動学で日本の草分け研究者の日高敏隆の弟子。著作も多いが、批判も多い。批判の主因は著作のお決まりのパターンにある。まず、生物学や動物行動学の面白い成果を文献から見つけてきて、それを紹介する。一般人が理解できるように明快に説明してくれる。ここまではさすがなのである。本書も同様である。だが、著者はなぜか、次の段階でそれを時事ネタや男女の浮気やセックスと言ったシモネタに結び付けてしまう(本書も前半部の動物の子育ての文献を踏まえながら、後半部で著者の考察は動物の一種である人間の児童虐待や継父の子殺しに向けられる)。この流れは個人的には面白いと思うのだが、時には無理やりにでもシモに直結させる印象を与えるため専門家からは「生物学の話と男女関係は別だよ!理論の濫用だよ」と猛攻撃されてしまうのだ。だが、もはやそこが著者の魅力ではないだろうか。「水戸黄門」を見ていて、「いつも、8時40分前後に印籠出してるんじゃねーよ」と突っ込まないのと同じ「お約束」である。水戸黄門にマジギレしてはいけない。印籠を出さない水戸黄門は見る意味がないではないか。

著者の本はおそらく本来届くべき人に届いていないのだ。基本的に「動物とか生物とかよくわからないっす」って人びとの興味を惹こうと書いているので、パフォーマンスが過ぎてしまう時もあるのである。だからこそ、私のような卑俗な人間でも手にとってしまう。そして、「こんなこと、あるのかよ!」と思いながら、関連のより専門的な自然科学書を読む気にもさせてくれる素晴らしい効能もある。興味を喚起させるという意味では著者の本は笑いながら読めるし、最適である。「自然科学風味シモネタ系エッセイ」のジャンルならば、おそらく日本で右に出るものはいない鉄板の面白さなのである。

脱線してしまったが、本書はいつもの「お約束」が少しばかり抑え気味だ。個人的には残念だが、逆に、動物の面白い子育て事例集として読めるし、人間の子育ての示唆にも富んでいる。結果的に、動物好きにはたまらない一冊になっているし、子育てに悩む方々のヒントも詰まっているのだ。繰り返しになるが、生物学の文献の解説などはわかりやすく、さすがの筆力なのだ。実際、本書の読後に昨日の「ダーウィンが来た!」を見たが、「ほのぼのとしているがお前らもがんばっているんだな」といつも以上に感動してしまったことがそれを物語っているだろう。

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