★★★★☆
球体好きはもちろん、ものづくりの凄さを知りたい人にはおススメ
「おススメ」とは書いたが、誰もが楽しめる本ではないかもしれない。本書は球体に魅せられた著者による、球体好きのための、球体についての本なのだ。
球体のはなし (2011/03) 柴田 順二 |
「鉄ちゃん」、「鉄」と呼ばれる鉄道好きな人たちがたくさんいることは皆さんご存知だろう。電車の先頭車両で実際に見かけたことがある人も多いと思う。鉄道だけではなく、飛行機や自動車が好きな人もいるし、乗り物以外でも城や虫に愛情を注ぐ人たちもいる。数ある対象の中から著者は「球体」を選んだ。何でまた球体なんかに、とも思ったが、球体に魅せられた人は他にも大勢いるようで、先達に事欠かないそうだ。趣味が高じて球玉ビジネスを起業した人(どんなビジネスなんだ?と思った人は本書で)から球体オブジェづくりに励む芸術家まで、世の中は本当に色んな人がいるもんだ。
著者の専門は、機械加工、表面工学、工作機械だが、本書の範囲は球体の歴史と文化にまで及ぶ。第1章「球体の文化と歴史」によると、人類は先史時代から球体に魅せられていたようだ。世界各地に古代からの石球崇拝の跡が残されている。彼らは太陽や月の姿を石球に重ねたのだろうか。その真意を知ることは困難だが、球体が自然界にも人工物にも共通して存在するきわめて異質な形体であることは確かだ。工学的に大活躍している平面や円柱は自然界では見つけられない。
球体の特殊性は自然界にも人工物にも共通して存在することだけにはとどまらない。中学校の数学を思い出そう。球体の半径をrとすると、その外周(L)はL=2πr、表面積(S)はS=4πr2、体積(V)はV=(4/3)πr3である。何がいいたいのかというと、球体はたった1の変数が分かればその形体特性値が分かるのだ!!ここは驚くところである。ちなみに立方体ではこうは上手くいかず、6つの変数が必要となり、超精密なレベルでの体積の測定はより困難となる。
この特性のおかげで、球体は様々な分野で活躍している。例えば、未だに物理法則でなく、実態物によって定義されている「質量」の物理法則による決定の鍵を握るのは球体だ。詳細な議論は本書に譲るが、アボガドロ数の決定には理想的な真球の形成が必要であり、アボガドロ数が精度よく決まれば質量を定義することが可能となる。
理想的な真球の追求は世界各国で行われているようだが、ギネスブックによると、その真球相対比は1.8×10-7だそうだ。これは地球の大きさ換算で、地表の凹がたった5mという丸さに相当する。「こんなのどうやってつくったの?」、というより「どうやって測ったの?」が気になるところだが、その評価方法は不詳であり、科学的信頼度は保証されていない。とはいえ10-6程度の真球度は実現されているのだから、驚くに値する。
ここまで紹介した部分は本書の触りに過ぎない。本書にはもっとディープは球体の作り方や使われ方が満載だ。皆に薦められる本ではないかもしれないが、著者の球体にかける情熱がひしひしと感じられる一冊である。