その話は別の機会に 『知性の限界 不可測性・不確実性・不可知性』

2010年4月25日 印刷向け表示
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採点★★★★☆

じっくり考えることが好きな人にはおすすめ

「理性の限界」の続編。前著と変わらぬ形式で、とっつきにくい科学・哲学について、さくさくと議論が進んでいく。知的興奮を味わいたい人は是非。

知性の限界――不可測性・不確実性・不可知性 (講談社現代新書) 知性の限界――不可測性・不確実性・不可知性 (講談社現代新書)
(2010/04/16)
高橋 昌一郎

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本書は著者が様々な立場の人間(生理学者、会社員、文化相対主義者など)になりきり、それぞれの立場から様々な命題について議論を進めて行く。議論の中で最も効果的に使われている言葉は、司会者の「その話は、また別の機会にお願いします」であろう。このたった一言で脱線しそうな議論を修正してしまう。まさにスーパーファシリテーターだ。このツッコミともボケとも取れる言葉で、何度も”にやり”とさせられた。

第一章「言語の限界」で取り上げられている『ソーカル事件』(ソーカル事件のWiki)については全くしらなかったが、以前お話を伺った佐山展生さんのお話を思い出した。

「話が分かり難いのは、話す人が本質を理解していないからだ」

人と議論が噛み合わなくて悩んでいる人は、このような視点から自分の意見を見直すのも有効ではないか。

第二章「予測の限界」では、ブラックスワンで一躍有名になった帰納法の限界について詳しく述べられている。また、「科学とは何か」についての歴史的考察も見られ非常に興味深い。大学の仲間と飲むと、しばしば「科学」についての見解の違いから議論になるが、こういう知識を共有していればまだまだ深い議論が出来るんだろうなぁー

この章で紹介されているリチャード・ドーキンスが科学者を志すことを決意したエピソードも興味深い。少し長いけど引用

あるアメリカ人の生物学者が、オックスフォード大学に招かれて講演した際、こともあろうに、同大学の動物科学の著名な教授の理論を公然と反証してみせました。これに対して、当の教授は、講演が終わるやいなやステージに歩み寄り、講演者の手を力強く握り締め、感動冷めやらぬ声で言ったそうです。

「君に何とお礼を言ったらいいのだろう。ありがとう、私が十五年間間違っていたことに気づかせてくれて」

講堂にいた学生たちは全員、手が真っ赤になるまで拍手を送り続け、その瞬間、学生だったドーキンスは、科学者になることを決意したそうです・・・・。

第三章「思考の限界」ではファイヤアーベントの破天荒な生き方にワクワクさせられた。最近ファインマン、マリスのように一見破天荒に、実は、自分に正直に、生きている科学者に強く惹かれる。バガボンドで祇園藤次が言っていた「お前の人生は誰のものだ」という台詞が自分に向かって投げられているような気がしてならない。

人間の「知性の限界」に挑んでいった、数多くの人々の物語が、本書をただの科学哲学史にしていない理由かもしれない。

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